ひいらぎ 『地平線と秋の空』
逃げも隠れもしない、嘘も偽りもない真っ直ぐな歌でリスナーと心を繋いできた10年間、その集大成となるファースト・アルバムが完成!
天高く晴れた空に、風が思いのままに雲を使って絵を描く。目を転じれば、どこまでもまっすぐに続く地平線──思い浮かべるだけで心のなかに大きな空が広がり、胸の内をやわらかい風が吹き抜ける。ひいらぎのファースト・アルバム『地平線と秋の空』は、そんな風通しの良い広々とした空間を感じさせる作品になっている。
「変わるものと変わらないもの、っていう意味のタイトルにしたかったんです。自分もそうですけど、人の心ってすごく変わりやすいじゃないですか。昨日は右って言ってたくせに、今日は左って言ってみたり。そういう〈秋の空〉みたいに変わっていく部分と、どこまでもひたすら真っ直ぐに続く〈地平線〉的な部分を両方表現したかったというか。あと、遠くにあると思ってたら意外に近い存在だった地平線のように真っ直ぐに歌を伝えていきたいって思ったんですよね……でも、そんなふうに地平線のことを思うのは、私たちが北海道に住んでるからだって言われました。他の場所では地平線は見えないもんだよって(笑)」(恵梨香、コーラス/ギター)。
アルバムの1曲目は“地平線”。結成以来、路上で歌う自分たちを支え続けてくれたリスナーに向け、デビューに際して感謝の気持ちを歌ったこの曲は、歌を介して人と繋がりたいと願う、ひいらぎの基本とも言える曲。そうした〈歌う自分〉というものに焦点を合わせた曲があれば、自分らしく生きていくことがテーマになった曲もあり、恋したときの心の揺れが綴られた曲もあり……本当に〈秋の空〉の如くさまざまな心の景色が歌に映し出されている。
「自分で聴いてても、ホントにいろんな曲があるなあって。いまの自分たちの心境を表した曲もあるし……例えば恋愛の曲とかもいままではあまりフィーチャーしてなかったんですけど、今回は失恋の曲も現在進行形の恋の歌もあったり。そんなことも含めて、バランスのいいアルバムになったんじゃないかと思いますね。それと個人的には“僕らの明日”で初めて丸々一曲、作詞作曲に挑戦したことが大きかったです。正直、ものすごくたいへんな作業で、これを毎回やってる恵梨香を改めて尊敬しました(笑)」(千晶、ヴォーカル/ギター)。
その“僕らの明日”は、仄かにブラック・ミュージックの匂いを湛えた開放的なミディアム・ナンバー。友人や仲間と過ごすかけがえのない時間をテーマにした歌詞と素直な語り口がなんともホッとする……という千晶のチャレンジに対して恵梨香のチャレンジは、“二人の記憶”でのメイン・ヴォーカル。どこか儚く可憐なヴォーカルは、言葉ひとつひとつから心の痛みが伝わってくるほどの失恋を歌ったこの曲にしっくりとハマッている。
「メインを歌うの、イヤですねー(笑)。ハモリを歌うのが好きだし、ヴォーカルに自信はないし、恋愛の曲を自分で歌うのは恥ずかしいし……でも、アルバムの表情のひとつとしては、これもアリなのかなって。とはいえ、改めて歌手の人はすごい、千晶さんはすごいって思いました(笑)」(恵梨香)。
時に、歌うのが照れくさくなる。裏を返せば、それだけ嘘も偽りもない本当の気持ちを歌った曲だというわけだ。そんな全13曲のなかでも、特に心を殴られたような気持ちになるのが“亡くすべきもの”という曲。口先だけのエコロジー、善人ぶったエコロジストは、この曲で一掃できるのではと思えるくらい〈本当のこと〉を見据えた一曲だ。
「エコ、エコって言われることに、軽く疑問を感じてて。ひねくれ者の自分がエコを考えるとこうなるみたいな。みんなで一度リセットすればいいっていう思いが、ワッと出た曲だったりします」(恵梨香)。
つまりは、何に対しても逃げたり隠れたりしないということ。そういう気持ちで編んだ13の歌は、自分自身の弱さにも真っ直ぐに向かい合った、信じるに足る歌たちなのである。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年11月18日 17:45
更新: 2010年11月18日 17:46
ソース: bounce 326号 (2010年10月25日発行)
インタヴュー・文/前原雅子