INTERVIEW(2)――歌はコミュニケーション
歌はコミュニケーション
――ドラム・サウンドが特に印象的だったんですけど、思ってたよりもシンプルな音でした。個人的に60〜70年代の歌謡曲って大好きなんですけど、この『ONE』にもその伝統、特に沢田研二あたりに通じるグラマラスな〈歌謡〉を感じました。
「ありがとうございます。実は僕もすごく歌謡曲が好きで、洋楽をほとんど聴かないんです。今回はあえて英詞も使っているんですけど、日本人が歌っているので、できれば日本語で書きたいと思ってます。もちろんJ-Popにもいいものはありますし、いまの流行の音楽を否定するつもりはないんですが、もうちょっと前の〈歌謡曲〉と呼ばれてた音楽のほうが、メロディーも立ってたと思うし、言葉もすごく強いものが多かったと思うんです。彩冷えるでメジャー・デビューしてからずっとそうなんですが、言葉使いや特にメロディーに関しては、できるかぎりいろんな世代の人に聴いてもらえるように意識してます」
――確かにこの『ONE』を聴いて、葵さんは言葉を歌として表現することに自覚的な人なんだな、という印象を持ちました。
「日本語で歌うことって、言葉がしっかり聴き取れないと伝わりづらいな、と最近すごく思っています。日本語って言葉ひとつひとつに色があるし、そういうのはどうしたらより伝わるのかな?と考えながら歌っているので、そういう部分で言葉は大事にしています」
――なるほど、葵さんの歌は聴き手がいて完結するものなんでしょうね。
「そうですね。そういう意味で音楽は、伝えて、その伝わった人の反応から生まれたものをまた伝えて……っていうコミュニケーションのひとつだと思うので。昔は確かに、自分の好きなものを真似たり、好きなアーティストの〈いいな〉と思った歌詞の表現を真似てみたり、そういうこともあったんですけど、それだと表現として伝える必要はないですよね。それこそカラオケで歌ってればいいと思うし。僕は伝えたいものがあって音楽をやってるんで伝えなければいけないという気持ちが強くて、伝えたものに対してよくも悪くも反応が返ってくるのがいちばん嬉しいし、返ってきたら今度はそれにもっと応えるような音楽を作っていきたいなと思います」
――今回の『ONE』はまさしくそういうアルバムだと思います。
「ジャケット写真も真っ白い服ですけど、何色にも染まっていない状況に一回戻ろうと思って。いままで応援してくださったファンの皆さんがいるし、いままで作ってきた音楽もあるので、〈0〉ではなく〈1〉からのリスタート。どのくらい自分がひとりでできるのかな?というのに挑戦したいのが2011年という年なので。だから『ONE』なんです」
――挑戦といえば、これまで海外での活動も盛んでしたが、そのことでご自分にフィードバックされたことはありますか?
「現地の言葉でカンペを用意すると、伝わってるのかどうかわからない微妙な空気になるんですよね。でも日本語でMCすると、なんとなく伝わってる感じがするんですよ。現地の言葉に染まるんじゃなくて自分の言葉で伝えた方が伝わるんじゃないのかなと思って、あらためて日本語の大事さを学びましたね。あと、皆さんからはどう見えてるかわからないんですけど、自分は一応〈ヴィジュアル系〉っていうジャンルにいるつもりではあるんです。個人的にはそれほど枠組みを気にしているわけではないんですけど、ヴィジュアル系って日本独特の文化で、アニメに近いものだと思うんです。そこは海外が注目するところで、海外にまた行けるんであれば行きたいなと思っているんですけど」
――〈ヴィジュアル系〉って最初は英国あたりのニューウェイヴの影響が強かったと思うんですけど、いまでは逆にフランスなどに〈ヴィジュアル系〉の影響下にあるバンドがいたりで、おもしろいですよね。
「実はブラジルとか南米からのオファーが多いんですよ、彩冷えるの頃から。実際に行っているバンドさんもいて、日本だと大体200人くらいのキャパのバンドさんでも、ブラジルだと8,000人くらい集まるらしいです」
――へー!!
「それくらい注目度は高いらしくて」
――南米からは絶対に生まれないカルチャーですよね、ヴィジュアル系って。
「真逆ですよね。あの世界にヴィジュアル系が入るとどういう景色になるのか?ってのも楽しみだったりしますね」
――昔、キュアーがブラジルで人気があったらしいんですけど、集まったファンは、ヨーロッパ同様黒ずくめなのにみんな下が短パンだった、という話を思い出しました。
「そう、そういう絵を見てみたいんですよね。ヨーロッパだとそんなに違和感はないんですけど……南米だとどうなるのかな?ってすごい気になりますよね(笑)」
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