インタビュー

LONG REVIEW――葵 from 彩冷える 『ONE』

 

葵 from 彩冷える_J

フロントマンがソロ活動に踏み出す時には、バンドではやれなかった表現を野心的に試みたり、あるいはよりパーソナルな部分が立ち現れてきたりするものだと思う。彩冷えるの(実質的な)分裂をくぐり抜けた葵の初作『ONE』もその例に漏れるものではない。

オープニングの“Liar”はライヴ・メンバーでもある中島拓也が作/編曲を担当。コンポーザーとしては中島愛からテゴマスまでを手掛ける彼だが、ここではあの柴田俊文(ピアノ)や黒夢のHITOKI(ベース)、徳澤青弦(チェロ)らの著名なプレイヤーを配してアレンジにも腐心し、なかでもファンキーな“Guilty”は率直に格好良い。ジュリーの“ス・ト・リ・ッ・パ・ー”を思わせるスウィング調の“誘惑”などは彩冷え時代とはまた別種のバンド・サウンドで主役の歌謡性をパッケージした成功例だろう。

同曲が象徴的なように、アルバムの序盤を支配しているのは歓楽街特有の刹那的でポップな水っぽさだったりする。ck510こと後藤康二(元ZYYG)のペンによる“MI DA RA”も“ブランデーグラス”のようなメロディーが印象的だし、メイヤなどを手掛けてきたスウェーデンのフレドリック・ボストロームらによる“Surrender Love”も同様。ゴールデン街じゃなく歌舞伎町の入り口の横断歩道とでもいうか、いわゆるサブカル的な側面から愛でられる〈昭和歌謡〉にはない、最大公約数的な雑踏に映える賑わしさが潔い。

中盤以降、ドラマティックな意匠を伴った“想い出になる前に”や“Everlasting Love”などは、一転して清潔感のある等身大(?)を打ち出した純情系のラヴソングとなっている。ポジティヴで壮大なアレンジを手掛けた前口渉がアニソン界隈の大物だというのにも納得で、このあたりはヴィジュアル面の好みを超えて届きうるポテンシャルのある楽曲だろう。

同路線の“secret whisper”では葵自身が作曲も手掛けているが、詞曲の両方を本人が担ったものでは切々と歌われるスロウの表題曲(通常盤にのみ収録)に注目したい。複数の意味が重ねられた〈ONE〉という言葉が何を示すのか、紋切り型の表現に拙さを感じる部分もあるものの、独立独歩を選んだ男の決意が率直に伝わる上々の初作じゃないだろうか。

 

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掲載: 2011年01月26日 18:00

更新: 2011年01月26日 18:13

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