INTERVIEW(2)――音楽を作る過程の楽しさ
音楽を作る過程の楽しさ
──とにかくいろんな方々と作業をされてきましたけど、忘れられないエピソードはありますか?
「あのね、あんまりないんですよ。結構なエピソードとかあると、こういう取材の時におもしろいと思うんですけどねえ(笑)。すべて平和に進んでるんですよ。そうだなあ……やっぱり平井堅さんは良かったなあ。僕はそんなにJ-Popを聴かないので、でも平井さんの存在も歌声も知ってはいたし、仮歌で歌った時に一発目から平井さんの感じができ上がっていて、すごいなあと感心したのを思い出します。あとね、Crystal Kayさん、AIさん……R&B系というか、そういうところにいた人たちっていうのは、歌声だけでいろんなことを訴えかける、歌というものだけで人を感動させようというかね、それは意識的じゃないにしろ、やっぱりそれ自体で感動させてくれるんですよね」
──〈WORKS BEST〉通常盤は冨田さんのキャリアのなかでもわりと知られている曲やアーティストを収めた一枚になりましたね。
「通常盤は本当に入門編みたいな感じで、この曲が入ってるから買ってみようかなみたいな人にも、こういったひとつの世界観を通してなにかしら楽しんでもらえるかなって思うんです。ある程度僕のキャリアを知ってくださってる方は、やっぱり3枚組のBOXのほうが断然おもしろいと思うんですよ」
──BOXのDisc-2には、いわゆる隠れた名曲とリミックス音源もさらに数曲。
「リミックスっていっても、僕の作るものって世に言うリミックスとは違いますからね。新しく曲を作るのと同じ感じですから。ここに入ってるキリンジの“イカロスの末裔”がリミックスというものを初めてやった曲で、これはアコースティックな原曲をエレクトリックにしたものですけど、普通に録音されてたものを4つ打ちにしたりっていう、〈マシン寄り〉のリミックスって世の中にはわりと多いなあって思ったので、これ以降は逆のことをしようって考えて。たとえばSoulheadの“空”みたいにR&B的な楽曲を、僕の好きな70年代後半とか80年代の音にしようとか。あたかもその曲の元ネタになった曲はこれだ、みたいな考え方でリミックスをしてましたね」
──Disc-3に収録されているのは『Shipahead』と最新曲“エイプリルフール”のデモ音源。
「リイシュー物のBOXセットとか○○エディションとかで、別ヴァージョンとかデモ・ヴァージョンとか聴くのって音楽ファンとして楽しいじゃないですか。僕もそういうものをやっぱり買っちゃうんですね。このデモは、曲が出来た時にシンガーのみなさんに聴かせたそのまんまのものなんですけど、なんか聴き返してみるとね、作ってた時の感情とかが──完成品になって初期衝動がなくなってるってことはないんだけど──よりストレートに感じられてね。作った時の作り手の感情とかが直に伝わるもの、それって音楽が好きな人ならみんな楽しめるものなんじゃないかと思って、僕が歌ってる仮歌とかもヘロヘロで恥ずかしいんですけど、でも、それでもおもしろいかなあと思って入れてみたんです。もちろん、出来上がったアルバムの音を知っててこそのおもしろさなんですけど。あとね、BOXのほうのブックレットには手書きのスコアも載せてみたり、“エイプリルフール”のメイキング映像を付けてみたりしたんですけど、それというのも、音楽を作ってる過程の楽しさをちょっとでも感じてもらえたらいいなあってことでね。僕はずっと音楽を作ってきてますけど、作ってるのが楽しいからやってるわけですよ。いわゆる〈お仕事〉って思ったことはあまりないですからねえ。誉められたことじゃないのかもしれないですけど、仕事って思ったら効率とかを考え出して、そうすると早めにOKラインに達することを考えて、それを量産すればいいっていう考えになるじゃないですか。僕の好きな音楽ってそういう考えでは作られてないと思うし、僕自身もその考えでは作れないんです」