LONG REVIEW――冨田恵一 『冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember ~』
プロデューサーに作/編曲者、リミキサーといった顔はもちろん、みずからさまざまな楽器を操りミックス作業まで手掛けるという、マルチな全身音楽家である冨田恵一。その類い稀なる才能を発揮し続ける彼が、今回『冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~』を発表した。
彼の手腕を一躍知らしめることとなったキリンジ“エイリアンズ”や中島美嘉“WILL”をはじめ、数々のアーティストの楽曲を収録したDisc-1、自身による味わい深い歌声が印象的な冨田ラボ“BCC:”やオリジナルをも凌駕するストリングスが冴える真心ブラザーズ“ENDLESS SUMMER NUDE (Tomita Lab.Remix)”など、隠れた名曲が勢揃いのDisc-2。そして、それらの制作過程が垣間見られるような貴重なデモ音源を収めたDisc-3に加え、ヴォーカルに坂本真綾を起用した軽やかでメロウな新曲“エイプリルフール”の制作を追ったドキュメントDVDまで収録された本作は、彼のこれまでの軌跡を振り返ることのできる、まさに集大成的な作品となっている。
こうして改めて作品に触れてみると、まるでキューブリックの映画を思わせるような綿密さで構築されたバック・トラックや華麗かつ繊細なストリングス・ワーク、美メロの高品質ぶりはさることながら、どの楽曲にも〈冨田イズム〉とも呼ぶべき、自身の音楽に対しての確固たる美学が貫かれているのを感じることができるはずだ。それこそがあの、聴く者の心の奥底をそっと撫でて鮮やかなしるしを付けていくかのような、希有でマジカルな音世界を紡ぐ核となっている気がしてならない。