INTERVIEW(2)――4つ打ちの進化形
4つ打ちの進化形
――では、2曲目の“DANCING BABE”ですが。こちらもオーダーがあって、ということですけれども、映画「婚前特急」の内容に合わせて?
桃野「そうですね。でも、曲はMONOBRIGHTとしてやりたい楽曲を作ろうと思っていたんで。南の国の要素っていうか、そういうもので盛り上がるような曲がMONOBRIGHTではあんまりなかったから、そういう要素で作りたいなと思って。歌詞は完全に映画を観てイメージしたものを書きました」
――カリビアンなのかなんなのか、っていう雰囲気ですね。
ヒダカ「フレンドリー・ファイヤーズとかね。あと誰だ?」
出口「ヴァンパイア・ウィークエンドとか」
ヒダカ「そういう洋楽のそういうムーヴメントに触発された曲です。一歩間違えるとYOUR SONG IS GOODなんですけどね(笑)。MONOBRIGHTがやると全然違うっていう」
――先ほどは〈映画がベーシックにあって〉というお話でしたが、実際の作り方はどうだったんですか?
桃野「最初にそういうのを作りはじめたのは“あの透明感と少年”っていう曲で、〈アフタースクール〉っていう映画の主題歌だったんですけど、僕はそういうものに触発されて作るのは好きなので。そのコンセプトに合ったものだったりとか、題材を元に作るっていうのは自分の持っていない引き出しを開けるチャンスだと思って作りました。今回の〈婚前特急〉も、話の内容的には吉高由里子ちゃんがまじめなんだけどちょっと不埒な部分があってみたいな」
ヒダカ「5人の男性と同時進行して付き合って」
桃野「で、どれにしようかな、みたいな。でも選び方はまじめだな、みたいな」
ヒダカ「ちょっとオフビートな、不思議なコメディーで。なので、サウンドもわりとオフビートっぽく。オフビートっていうとちょっと語弊があるけど、無駄に派手にしないっていうか。抜くとこ抜いちゃったほうが、逆に映画のオフビートっぽさとは近いんじゃないかっていうのはありますよね。カリビアンって、やろうと思えば〈浅草サンバカーニバル〉ぐらいまでできるけど、それだとトゥーマッチになっちゃう。そこまでやらない」
桃野「確かに映画もそうですね。明るいようで暗いっていうか」
ヒダカ「まさにタッキーみたいな」
桃野「タッキーは暗いです(笑)」
ヒダカ「暗いようで暗い。でもドラムだけ無駄に元気(笑)。この曲のドラムはすごい元気だもんね。とてもこの人が叩いてるとは思えない。無表情でドンカドンカいってくるんで(笑)」
――瀧谷さんは、この南国風の雰囲気も研究しました?
瀧谷「ドラマーがいっぱい出てて、演奏してるサイトとかを観たり」
ヒダカ「あるんだ、そういう〈ドラマー.com〉みたいなサイトが」
瀧谷「そうです。そういう感じのがあって、そこでいろんな方が演奏してるので、それを観たりとか」
ヒダカ「観たけど練習はしてないってことでしょ、また」
瀧谷「練習はしてないです」
ヒダカ「ほら(笑)」
――(笑)そんな方とコンビを組んでいる出口さんはどうなんですか?
出口「すごく練習しましたね。この曲に関して言えば、大元の曲のアイデアはけっこう前からあって、それをこのタイミングで一から再構築し直すっていう作り方だったので。ガラッと変える時の作業がすごく難しかったというのは、印象としてありますね。ベースのラインで言えば、南国っぽいものって自分のなかにはないリズムだったんですよ。4枚目のアルバム『ACME』の1曲目に“淫ピーダンス”っていう、南っぽいリズムを前面に出した曲があるんですけど、そのときも、やっぱり自分のなかでコントロールができないな、っていう気持ちがあって。この曲はプリミティヴな方向ではなくて、すごく好きでやってるけどもなかなか再現できてない、でもカッコいい人っていうイメージなんです。すごくわかりやすく言うと、ポリスなんですけど。ああいうちょっと揺れるんだけども逆にそれが気持ちいいっていう部分を研究して」
ヒダカ「この間のスティング、ベース弾いてなかったっぽいもんね。ちょっと映像を観たけど、オーケストラとガット・ギターみたいな。よかったけど」
――カリビアンなのかなんなのか、ってさっき言ったのは、まさにそういうところで。〈なんなのか感〉がすごくある。
ヒダカ「モロじゃないし。できないだろうしね、完全なカリビアンって」
出口「そこをなんとかやって出た音とのギャップみたいなところに熱さとか敬意みたいなものが表れるのかなって感じですね」
――松下さんはいかがですか?
松下「題材は自分のなかでもヴァンパイアだったんですけど、音の抜いてる感とか、ゴージャスにしすぎない隙間感みたいなのは考えながら弾いたのと、でーさんの話を聞いてて思ったのは、スティングが研究はするけど自分のものにはあまりしないっていうのって、例えば怒髪天とかが、すごいうまいんだけどその筋じゃないっていうか……」
ヒダカ「パロディーっぽいことやるけど、モロじゃない」
松下「モロに歌謡曲みたいな感じじゃない。それをなんとか表現しようとして、みんな超絶にうまいみたいな。そういう感覚がすごいいいなって。それが自分の音だし、バンドの音だなって思ったんですよね。憧れてる音に追い付こうとして、自分のなかでなんとか消化してやるっていう感じで、けっこうスカスカな単音のフレーズにしたりとか」
ヒダカ「逆にソロ何回もやったもんね。難しそうなのが印象的だった。正解はあるんだけど、正解通りに弾いちゃうと逆に〈ぽく〉ないっていう」
松下「〈合ってないんですよ〉って言ってもみんなは〈別にいいじゃん〉ってなるんですけど……」
ヒダカ「まっつんの思ってるタイム感があんまりジャストじゃないっていうかね。俺らはジャストで弾くのかなって思ってたんだけど、逆にルーズ感をすごい出そうとしてた。本末転倒だけどね、よく考えると。なんか“California Sun, California Rain”の時に思いましたけど、ストーンズっぽいルーズさって、われわれは狙わないとできない。そういう世代じゃないし、俺ですら違うから。逆にいい勉強になった」
松下「すごい勉強になって。弾ける/弾けないじゃなくて、表現の部分で。それが人懐っこいものであればポップだと思うので、題材が何でも。すごくごっつい音を作ろうが、軽い音を作ろうが、人が楽しくなって初めてそれがポップだと思うんで、そこらへんの研究っていうか、特にこの2曲ではやりましたね。あとリズムが難しかったですね」
ヒダカ「いままでと逆だもんね。ウワものがワーッといて、リズムがそこにアクセントをつけて、っていうんじゃなくて、こっちはウワものがアクセントだから。逆にタッキーはずーっとワーッてなってるっていう。ルーズ感の置きどころが難しい。だからカリビアンの人たち偉いなって思うよね」
松下「ずっと同じことをやっていても展開がわかりやすいとか、そういうのはすごい勉強になった。僕だけじゃなくてバンドのアレンジっていう部分で」
――いい意味での軽さがありますよね。こういうダンス感は、日本のバンドでやってる人たちはいまのところそういないかも。
ヒダカ「ディスコ・パンク的な4つ打ちから一つ先の進化形と思ってもらえれば」