INTERVIEW(2)――オリジナルがあってこその〈FAKE〉
オリジナルがあってこその〈FAKE〉
その一方で、本人いわく「原曲とは違う方向性のアレンジで、新しい曲みたいに聴こえるかどうか」という点が際立つ〈FAKE BOOK〉シリーズならではの逸品が、冒頭を飾るエアロスミスの“Angel”だ。柔らかな歌声と、シンプルで穏やかなピアノとベースとドラムの音だけが鳴り響く大橋トリオらしいアレンジが施された美しいアコースティック・カヴァー……だが要はこれ、原曲からジョー・ペリーのギター・フレーズをごっそり抜いてしまうという、ある意味恐ろしく挑戦的なアレンジがさり気なく施された1曲でもあるのだ。
さらに、そんな大橋トリオ流カヴァー哲学の真髄を思い知る1曲が、デヴィッド・ボウイの名曲“The Man Who Sold The World”。ボウイが生み出したサイケデリックな世界や、ニルヴァーナがそこに吹き込んだグランジな世界。あの強烈な世界観をこんなにも軽やかかつメランコリックにスウィングさせてしまうなど、いったい誰が想像しただろう?
ほとんどの楽器演奏を大橋自身が行い、レコーディングもミックスも自宅スタジオにて、自身の手で行なわれたオール・ハンドメイドな一枚でもある本作。ちなみに、シリーズ名である〈FAKE BOOK〉とは、コード進行と旋律のみを記したジャズの楽譜集のこと。つまり、「オリジナルという、偉大な曲やミュージシャンあってこその〈FAKE=偽物作品〉」という、ジャズを基盤に持つ大橋トリオらしいリスペクトの意味が込められたものがこのシリーズ、なのだ。
「とりあえず何をテーマにするにしても、じっくり考えて作りたいですよね。企画盤を作るなら、カヴァーの他にも、ジャズ・アルバムとか、ピアノ弾き語りとか、いろいろやってみたいこともあるし。ただ、タイミングはあるでしょうね。いまジャズのCD作品を作っても、メジャー・シーンではなかなか難しいでしょうからね。そのためにも、いいアイデアを考えなければなぁと」。
2月に赤坂BLITZで行なわれた全国ツアー〈大橋トリオ concert 2011 “NEWOLD”〉の追加公演のMCで、「いい人になりたいと思います」とつぶやいていた大橋トリオ。その音楽や人に対する真摯な姿勢は、『FAKE BOOK II』からもきっと嗅ぎ取れるのではないかと思う。
▼『FAKE BOOK II』でカヴァーされた楽曲のオリジナル収録作品