【3月2日(2)】――すべてのものが消えていくような焦燥感
【3月2日(2)】――すべてのものが消えていくような焦燥感
――その“夢の跡”が、いちばん最初に出来た曲なんですか。
「そうですね」
――いわゆる、タイアップ・ソング(グリコ〈ビスコ〉のCMソング)ということになるんですけど、どういう始まり方をしたんですか。
「箭内(道彦、CMプロデューサー)から話をもらって、みんなで〈どうする?〉という話をして。そのときは曲が1曲もなかったので、〈CMだからどうせ使っても1分ぐらいだし、ワンフレーズ、ツーフレーズでも成立するだろうから、そういうやり方でやってみる?〉なんつって、1分ぐらいのものを4~5曲作ったんですよ。結局それがほとんどの曲の元になるんですけど、それを箭内に聴かせて〈どれがいい?〉と言ったら、〈1曲目の曲がいい〉と言われて、それから曲を作ったんです。カットアウトしたわけじゃなくて、あれしかなかった。だから(CMの)情景に合った曲が出来たというか、作り方としてはおもしろかったですね」
――変な話、CMソングを作るということに抵抗はなかったですか。
「それを、例えば背広を着た人が来て〈会社の企画としてお願いしたいんですけど〉ということであれば、たぶん断ったと思うんですよ。ただ単純に人との付き合いというか、〈やってみねぇ?〉とか言われて、〈いいの? 俺で〉みたいなノリではあったので。はじめは〈前に出した曲を使ってくださいよ〉とか言ってたんだけど、新しいのがいいと言われて、じゃあやってみようかと」
――歌詞のイメージは最初からあった?
「2行ぶんだけ書きました。最初は曲が1分なので、ヴァースで言うと二つ書いて。ギターの奏でる感じと、あと画コンテも見ていたのでなんとなくの情景は頭にあって、じゃあ単純にまずそこだけ作ってみようかなと。いつもはオケが全部出来てから詞を書き出すんですけど、今回は短編の短編みたいな。だからああいう瞬間的な刹那っぽい感じが、余計に出てるのかなと思います」
――〈夢の跡〉という言葉は、最後の曲“pilgrimage”のいちばん最後にも繰り返して出てきますよね。
「だから、どうしようかなと思ったんですよ。普段だったら絶対やらないんですけど、でもそこで曲が終わって、リピートボタンを押せばもう1回“夢の跡”がかかるという。ヴァラエティーに富ませるというのとは逆の発想で、かといって1曲ごとに曲は全然違うんですけど、でも感じ取る匂いはいっしょにしたかったので。一枚で世界旅行できるみたいなものではなくて、むしろ、動き回らないでそこにずっと、長く滞在するみたいな考え方です。ファーストや、セカンドも少しそうだけど、フル・アルバムだから余計に、世界を巡るワールド・ミュージックみたいな感覚があったと思うんですけど、今回はそうじゃなくしたかったというか。むしろ旅行としては、熱海ぐらいの感じというか(笑)」
――そんなに遠くない(笑)。
「そんなに遠くないみたいな。そこでふと感じる日常と非日常の間ぐらいの、でもやっぱり日常だという、そういうものを描きたかったんですね。特別な風景とかではなくて。こういう仕事をしておいて何ですけど、スポットライトが当たることではなくて、フッと素に戻る感じというか……家とかでもないんですよね。やっぱりちょっと出かけてるというか」
――街のなかなのかな、という気はしましたね。2曲目に“gross time~街の灯~”という曲もありますけど、人がいて、ざわついてる感じがするというか。
「そうですね。僕は、一人のときって孤独じゃないんですよ。部屋に一人でいても孤独感を感じないんですけど、周りに人がいっぱいいるときに孤独感を感じたりします、すごく強烈に。渋谷とかを歩いてるときに強烈な孤独感というか、すべてのものが消えていくような焦燥感に襲われるというか……たまにゾクッとすることがあるんですけど。どっちかというと今回はそれが強く出たというか、何かの間(ま)で、ふとした瞬間に、人生のすべてが終わってしまうという……夢落ちみたいな感覚が」
――“夢の跡”という曲にも、そういう喪失感は強烈に出てきますよね。兵どもが夢の跡、というような。
「それをどう取るか、ということですね。でも僕は、いつも〈これが最後なんじゃないか?〉という緊張感を持って、一瞬一瞬を、一日一日を生きていくべきだと思っているので。だから切り口は柔らかいかもしれないですけど、結局言ってることはいままで書いてきたこととあんまり変わってないなって、読み返してみて思いましたね」
――ああ……そうかもしれない。
「ずっと歌ってることだよなって。はじめは自分でも〈このやり方は新しいな〉と思っていたんですけど、違うなと。BRAHMANでも書いているような、いつもの自分のテーマだなと――」
そして、このインタヴューの9日後に3月11日がやってくる。