LONG REVIEW――OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND 『夢の跡』
アイリッシュ・トラッドやカントリー・ブルースなどのルーツ・ミュージックをベースに、アコースティックの心温まる音色を奏でるOAU。もともとゆったりとしたアーシーなサウンドを鳴らすバンドだし、去年にはその感覚をひとつの場所に具現化したようなフェス〈New Acoustic Camp〉も立ち上げ、成功を収めている。しかし、いま、その音楽が伝えるのは単なる〈心地良い〉という感覚だけではない。胸に迫る情熱を、身体を奮い立たせる力を、切ない郷愁を、そして時に人肌のユーモアを伝えてくれる。そう実感させてくれるのが5曲入りのミニ・アルバム『夢の跡』だ。
表題曲は、江崎グリコ〈ビスコ〉のCMソング。そのCMをはじめ、ジャケットやPVなどについても箭内道彦が全面的にプロデュースしている。他者とのコラボレーションやリクエストを受け入れることで、OAUのオリジナリティーがより際立ったのだろう。TOSHI-LOWの歌声にも、アコースティック・ギターの響きにも、〈想いを伝えたい〉という強度がよりブラッシュアップされて滲んでいる。2曲目“Gross Time ~街の灯~”のフォーキーな旋律も新境地だ。
ラスト“Pilgrimage”の歌詞にも〈夢の跡〉〈街の灯〉という言葉が現れる。これは推測だが、TOSHI-LOWはこの言葉に〈希望〉のメタファーを託していたのではないだろうか。2月に表題曲の配信がスタートし、当初は4月6日にリリースされるはずだったこの一枚。TOSHI-LOWがみずからの名前も最大限に使い、強い確信と共に復興のために身体を投げ出したのは、ひょっとしたら自分の作った音楽に背中を押されたこともその理由にあったのではないだろうか。そんなことすら思える、感動的な5曲だ。
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