INTERVIEW(2)――いま言わないと
いま言わないと
――そして新作の『待ちくたびれて朝がくる』。このメンバーになって2作目ですけど、どんな作品を作ろうと思って始めたんですか。
「前作の時は、僕がずっと一人でやってきて、そこに3人があとから乗っかってくるという流れがあったから、みんな自分の立ち位置を探しながら作ってたと思うんですけど。僕もいままでフル・アルバムというものを作ったことがなくて、心配だったんですけど、出来上がって感慨深かったです。で、届いたところはすごく届いたんですけど、届かないところがまだあって、そこはすごく悔しかったんで。またすぐCDを作ろうって周りの人も言ってくれたし、その時にもうメンバーはしっかり自分の立ち位置がわかってたんで、楽しく作れましたね。曲作りは苦労しましたけど、曲と歌詞を出しさえすればちゃんと形になるという保証はあったんで。そのぶん自分のなかで攻めるところは攻めて引くところは引いて、広い視点で曲が作れた自信もあるし」
――尾崎くんの役割は、まず詞と曲を作って、アレンジは――。
「アレンジにはまったく参加しないです。興味がない(笑)。だいたい長谷川カオナシがまとめるんですけど、いい曲ならいい曲ほど、周りがすぐ反応してくれますね。僕はとにかく出来たものを早く歌いたくて、それに周りが合わせてくれる感じです。その代わりメロディーと歌詞は、ほんと一生懸命やるんで。いいメロディーにちゃんと意味のある言葉をつけることに、すごいこだわりがあります」
――例えば1曲目“あの嫌いのうた”でものすごく耳に残る、〈嫌い嫌い嫌い嫌い〉を連発するところ。あれは最初からあの言葉だった?
「最初から〈嫌い〉と出てきましたね、なぜか。このメンバーになってからは、演奏に引っ張られて気持ち良くなって、〈いま言わないと〉と思って歌詞が出てくることがよくあるんですよ。早くこの演奏でこの曲を歌いたい、〈ラララ〉とか適当な言葉で歌ってる場合じゃないぞと思う瞬間があって、そういう時に言葉が出てきて。それに対して、あとでAメロBメロの歌詞を作って言い訳をするという(笑)」
――言い訳(笑)。というか、どの歌詞にもはっきりした物語があるから、この人は作家的な頭の使い方で曲を作ってるのかなと思ったんですよ。
「それはすごくあります。小説もすごい好きなんで。こう言えばいいのに何でそう言うんだろう、というような言い回しが好きなんですよ。1行で終わるのに3行かけたりするような、そういうおもしろさにはすごく影響されてます」
――ちなみに好きな作家は?
「いまは西村憲太という人が好きですね。『苦役列車』で芥川賞を取った人で、日雇いで稼いだ金を全部使っちゃったりとか、風俗に行きまくったりとか、女の人に暴力をふるったりとか、実話なんですよ。そういうどうしようもない人を見ていると安心するというか、そういうものが好きです。成り上がって成功するとか、全然興味がない。自分の周りを見ても、このままでいいと思いつつも現状に納得できないという矛盾は常にあるので。見る人から見ると〈じゃあ何なんだよ〉ということになると思うんですけど、でもそれでいいなと思ってます」
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