LONG REVIEW――クリープハイプ『待ちくたびれて朝がくる』
まず、この歌声だ。繊細な情感と、〈伸びやかな〉というありがちな形容をあてはめることを躊躇してしまうような刺々しさを併せ持つハイトーン・ヴォイス。聴いた瞬間に胸を掴む、強い〈握力〉を持った声。それが、歌詞の描く生々しい物語に聴き手を引きずり込む。音楽性という意味では、けっして目新しい存在ではない。サウンドのスタイルは王道のギター・ロックだ。疾走感あるギター・ストロークと駆け上がるメロディー。もしくはミドルテンポの優しい旋律。でも、〈どこかで聴いた〉ような感じはまったくない。ざらついた違和感が残る。そして聴いているうちに、その違和感の正体が、自分自身が日々暮らす現実に対して抱える感情とリンクするものだということがわかってくる。強い爪痕を残すような一作だ。
ピンサロ嬢を主人公にした“欠伸”。バブル世代のノスタルジーと憂鬱を描く“バブル、弾ける”。CDウォークマンの目線から献身を歌う“愛は”。今回のミニ・アルバム『待ちくたびれて朝がくる』に収録の楽曲は、ひとつひとつが言わば短編小説のような濃度を持っている。かと思えば、〈僕は君が嫌いです 本当に君が嫌いです〉と歌う“あの嫌いのうた”や“ウワノソラ”のように、一人称の視点から苛立ちを吐き出していくタイプの曲もある。どちらにしろ、聴き流すことを許さない言葉の強さを持っている。
言いたいことがあるから、爆音を鳴らす。誰かのようになりたいからでも、共感を誘いたいからでもなく、引き裂かれそうな思いを旋律に託す。彼らは、ロック・バンドとしてのそういった在り方を貫いている。そこが大きな魅力だ。
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