インタビュー

TYLER, THE CREATOR 『Goblin』

 

闇の向こうから創造主が現れた。さまざまな声や論や賛否が飛び交うなかで、その存在感とカリスマはいよいよ大きく膨れ上がっている真っ最中だ。『Goblin』で彼が新たにクリエイトしたものは何だろう?

 

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カニエ・ウェストが何かのアウォード授賞式に乱入してきて、〈いままでのビデオでNo.1だ!〉と言わんばかり(誇張)の絶賛を浴びせた“Yonkers”のPV。本誌今月号の表紙になっているのはそのワンシーンだが、ゴキブリ食ってゲロ吐いてシャツを脱いで首を吊るという、何と言うかバッド・テイストな内容で話題になったものだ……なんていまさら言うまでもないか。が、当の本人の弁はこうだ。

「あのビデオを本当に好きな人間なんて、ひとりもいないと思うけど」。

心の底はどうあれ、彼はまっすぐに賛辞を受け取ったりはしない。絵に描いたような2011年のインディー・ヒーロー、タイラー・ザ・クリエイターは安心させてくれる。

 

インタヴューは嫌いだし

91年にLAで生まれ、7歳からラップを始め、「普通のノーマルな子供時代」を送っていた少年は、14歳の時からタイラー・ザ・クリエイターと名乗るようになった。

「とにかく俺は、いろんなことを山ほどやってたんだよね。だから、さまざまなことに手を伸ばしていて、何かを生み出そう、クリエイティヴになろうとしていたんだ。ビートを作ったり、ビデオを監督したり、何かデザインしたり……いろいろ。アートやドローイングとか、そういうもの」。

そうした諸々の繋がりから生まれたのが、アールら周囲の面々と結成したOFWGKTAだ。名前を思いついたタイラーによれば、オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オールという言葉に「特に意味はない」そうだが、彼らは2008年の『The Odd Future Tape』をフリー配信という形でリリースし、以降もメンバーの音源をコンスタントにアップ。ネット主導という形で評判を集めていく。佇まいこそポスト・ヒップスター世代の若きラッパー像に当てはまるものではあったが、呻くような語り口とグロテスクなリリック、そしてローファイなビートのダークなコンビネーションは、また違った意味でのクールネスを指し示していた。結果的に彼らの存在感を大きく拡散したのが、インディー・ロック中心のオンライン・メディアだったというのは象徴的だろう。2009年のクリスマスに発表されたタイラーのソロ作『Bastard』は、ピッチフォークの〈2010年のトップ・アルバム〉で32位に選ばれている。それに続く2作目が、XLとのワンショット契約でリリースされた今回の『Goblin』だ。

制作を始めた日を「2009年12月26日」と答える律儀さも微笑ましく、コンセプトは「なし。ただ音楽があるだけ」、タイトルの由来は「ただ言葉として好きだから」と答える感じも、かつてよく見た光景のようだ。前作との大きな違いは「それぞれ別の時期に作られたこと」で、ほぼすべてをセルフ・プロデュースした収録曲についても「俺が凄く気に入ってる曲が集まっただけ。特にそれ以上の何かってもんじゃない」らしい。そして、「インタヴューは嫌いだし、撮影も苦手なんだ。とにかく音楽を作って、それが済んだらとっとと家に帰りたい」と……よくわかりました。

 

気になる集団

また、そうした気ままなスタンスは、ハイプを煽るように好戦的な言動にも表れている。先述の“Yonkers”では、“Airplanes”に絡めてB.o.Bやブルーノ・マーズをディスっていたし(後にB.o.Bがアンサーを返している)、Twitterでのやりとりを巡って一時はクリス・ブラウンとも一触即発になった。そうでなくても多くの人たちが嫌悪感を表明したり、リリックを深読みしたり、何かを何かに解釈したり、とにかく気にしている。そうやって気にさせる才能が、さほどヒップホップを聴かない層や昨今の知的なインディー・リスナーにハマった要因のようにも思える(ジェイムズ・ブレイクもそうか)。

そんなわけでクルー全体にも諸レーベルの争奪戦が展開されたわけだが、タイラーは「連中は間抜けだよ。とにかくバカ」と一蹴する。

「音楽をわかってない、それに、俺のこともわかっちゃいない。誰も俺については何ひとつわかっちゃいないけどさ」。

これまた何度も見た風景ではあるものの、かつての英雄たちが展開してきたパンクな業界批判とは匂いが違う。そもそもOFWGKTAはレーベルという器自体を介さずに活動してきたわけで、また違うレイヤーにいるのだ。「俺がやりたいと思った通りにやれない限り、俺は何もしない」との言葉も単なるポーズじゃないだろう。タイラー自身はゲームやクリプスの新作に参加し、次作『Wolf』もすでに進めているようだが、この後のクルーやメンバー個々がどう気にさせてくれるのか、引き続き気にしていきたいものだ。

なお、今夏の〈サマソニ〉にはOFWGKTAの面々を従えてタイラーが登場するはずで、彼はオーディエンスが「興奮してクレイジーになって、ファイトをおっぱじめて、で、楽しんでくれる時。それが楽しい」とのこと、ですよ。

 

▼関連盤を紹介。

左から、B.o.Bの2010年作『The Adventures Of Bobby Ray』(Rebel Rock/Grand Hustle/Atlantic)、クリス・ブラウンの2011年作『F.A.M.E.』(Jive)、ゲームの2008年作『LAX』(Geffen)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年07月27日 17:59

ソース: bounce 334号 (2011年7月25日発行)

構成・文/出嶌孝次