インタビュー

"E"qual 『STAY GOLD』

 

 

みずからの感覚だけを頼りに、マイペースでハイペースなリリースを重ねてきた彼。10年に及ぶ歩みを踏まえつつ、いままで以上に真摯でフレッシュな新作を味わえ!!

 

 

どちらが優れているかなんて考察はナンセンスとしても、仮にアーティストを2つの特性——弛まぬ努力で実績を積み上げるタイプと、己の感覚で勝負する天才肌——に分けられるならば、"E"qualは間違いなく後者だ。

今回発表した新作『STAY GOLD』には、本編であるオリジナル・アルバムと約70分にも及ぶ映像作品が同梱されているが、彼はそのほとんどを〈CREATION〉というタトゥーが刻まれたみずからの手で作り上げた。本職のラップのみならず、ビートメイキング、映像ディレクション/編集、さらにはアートワークに至るまで、だ。それでいながら、本人に言わせれば「出たとこ勝負」な作品だったそう。

「音と映像を同時進行して、途中からデザイン周りもやって……最後のほうは締め切りに追われて寝られなかったよ。基本、頭に浮かんだものをそのまま形にしただけだし、単純に作りたいと思ったものを作っただけだから、構想なんてまったくなかった。楽曲を作りながら映像も撮ろうと思って撮りはじめて、PVたくさん撮ったらおもしろいかなと思ってやってるうちに、〈全曲繋げてショート・ムーヴィーにしたらもっとおもしろいかも〉っていう感じになっていった。だから、全部後付けだよ。こういう形は制作途中に思い付いたし、最初はこんなふうになるとは思ってなかったからね(笑)」。

ある意味〈ノリ一辺倒〉で制作したようにも思えるが、結果として出来上がったものはありがちな自己満足からは程遠い。そこにある完成度の高い内容に筆者が感じたのは、音楽に正解はないとはいえ、"E"qualというアーティストにとって限りなく正解に近い形が導き出されているということだった。ストレートなメッセージをリリックに込めて届けるタイプではない彼のスタイルは、より聴く者の感覚に訴える要素が大きい。言葉は悪いが、〈なんかよくわかんないけど、すげぇかっけー!〉という初期衝動的なクールさを武器とする彼の魅力を端的に表現できるツールが、例えば今回の映像だ。ロッキッシュなサウンドでまとまったアルバムの質感や世界観を映像に落とし込んだ結果、一定の枠にとどまらない、"E"qualというアーティストの魅力やカリスマ性を誰にもわかりやすく伝えることに成功している。

「俺が望んでる感じだね、それ。正直、俺は別にそこまでヒップホップだけにこだわってはいない。もし、これがヒップホップじゃないって言われるんだったらそれでいいと思うし、すごいヒップホップですねって言われるなら〈そうでしょ?〉って思うんだよね」。

それでいて“Drama Mask”のように、彼の音楽に初めて触れるリスナーにもフックとなりうる楽曲もいくつか用意されているが、それも無意識的なものだそう。感覚だけを頼りに、さまざまな角度からバランス感覚に優れた作品を作り上げる——まさに〈天才肌〉といった彼に今後どんな動きをしたいか問うと、驚きの答えが返ってきた。

「露出を避けたことがしたいね。モノ作りは好きだけど、表にはあんまり立ちたくない(笑)。自分がどうっていうより、作品を感じてほしい思いのほうが強くなってるんだよね。だから別に俺じゃなくてもいいっていうか。〈この曲かっこいい!〉って思ってくれればそれでいい。それを感じてもらうために、いまは仕方なく表に立ってるっていう(笑)」。

アーティストとしてはかなり特異な考えに映るが、これも小細工ナシに真摯に音楽と向き合いたいという彼の気持ちの表れに他ならないだろう。その才能を存分に発揮した本作が象徴するように、形態はどうあれ"E"qualがストイックに取り組み、生み落とすアートは、タイトル通り、これからも輝きを持ち続けるはずだ。

 

▼"E"qualの客演した近作を一部紹介。

左から、AKIRAの2010年作『VICE』(BIGG MAC)、DJ OLDE-Eの2010年作『MIXXX Vol.1』(plusGROUND)、NATOの2010年作『13 BEATS TO DIE』(STREET OFFICIAL)、DJ RYOWの2011年作『MORE THAN MUSIC』、AK69の2011年のシングル『69 Sixtynine』(共にMS)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年10月25日 22:00

更新: 2011年10月25日 22:00

ソース: bounce 337号(2011年10月25日発行号)

インタヴュー・文/吉橋和宏

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