SIMI LAB 『Page 1: ANATOMY OF INSANE』
掲載: 2011年11月16日 00:00
更新: 2011年11月16日 00:00
ページを開けば、ヤバいビートが響く。奴らがそこにいる。常識を揺さぶられるのは、純度100%のエキスがSIMI込むのは、あなたの耳か、身体か、脳か、それとも……

ざわざわしている。伝染という言葉は染みが伝わると書く。感染という言葉は染みを感じると書く。「インクが落ちて染みが広がっていくように、音楽性や評判が広がっていく」(QN)という名称の由来通りジワジワと存在感を浸透させ、聴く者の耳に馴染んできた神奈川の集団、SIMI LABが、待望のアルバム『Page 1: ANATOMY OF INSANE』を完成した。取材に臨んだのはQN、OMSB'Eats、DyyPRIDE、MARIAの4MCに、DJのHi'Specを加えた5人だが、現在のメンバーは20人弱(?)だという。
そもそもSIMI LABは、高校時代のQNとOMSB'Eatsが共通の知人を通じて出会って意気投合し、互いのグループを合体させた大所帯のクルーだった。「俺はやっぱり地元にSAG DOWN POSSEがいたのが大きいですね。人数がいればいるほど格好良いと思ってて、OMSもウータンが大好きだし、ああいうファミリー感に憧れてたんですよ」(QN)という理念の下、デモ音源も制作しながら活動を開始したものの、それから1年ほどの間に8人が離れ、「気が付いたら俺とOMSと、DJのATTOって奴しか残ってなくて(笑)」(QN)という状態に。そんな折に彼ら主催のイヴェントで出会ったのが、OMSの中学時代の先輩を通じて出演していたHi'Specだった。それから――引きこもり状態だったDyyPRIDEがmixiの検索を通じてOMSを発見し――横須賀のクラブでたまたまDyyPRIDEを逆ナンしたMARIAが参入し――そのへんの経緯はもう各所に詳しいので省略するが――バラバラに知り合っていた彼らが初めて顔を揃えた日にビートが渡され、2度目に集まった際にはレコーディングとPV撮影を敢行。2009年末にYouTubeにアップされたその“WALK MAN”が局地的な話題を呼んで、SIMI LABの名はざわざわしはじめたというわけだ。
絶妙のタイミング
——まずはQNさんのソロ作が話題になりましたね。
QN 「“WALK MAN”の頃にはデモがほぼ出来てて、どんな形で出すか考えてました。ライヴをガツガツやってコネクションを広げてくよりは、とりあえず制作してヤバいもん作るのが自分らのスタイルだと思ったんで。そしたら“Welcome 2 My Lab”のPVを上げた後にファイルのA&R(現SUMMIT主宰)から連絡をもらって。その時点で自分のソロを出したら、2枚ぐらいジャブ打ってからSIMI LABで出そうっていう話をしてました」
——そこまでヴィジョンがあったんですか。
QN 「1~2年ぐらいの流れはイメージしておこうと思って。自分はけっこう適当な部分がいくらでもあるんですけど、リリースだけはタイトにやれた感じがします」
DyyPRIDE 「それ以外はデタラメな部分も多いけど、制作には集中してたよね」
——実際にEarth No MadとDyyPRIDEさんのジャブが出るわけですけど、最初にSIMI LABで打って出る考えはなかった?
OMSB 「少なくとも俺は、まだSIMI LABには手を付けづらくて迷ってました」
DyyPRIDE 「確かに、皆で作ったらどうなるか、なかなかイメージできなかった」
OMSB 「あと、まだそこまでDyyPRIDEともMARIAとも仲良くなってなかった。積極的に絡みたい感じじゃなかったし(笑)」
MARIA 「わかる。なんか最近になって、信頼が深まってる感じがする」
OMSB 「最近は話の噛み合わなさにも慣れてきたっていうか……」
QN 「バランスが良くなってきたよね」
MARIA 「家族になったんだよ」
——アルバムを作ることで勢揃いする機会が増えて、関係性が出来上がっていった部分も大きいんでしょうね。
QN 「確かに、頻繁に集まれるようになったのってここ最近で。9月にUSOWAとシェアでヤサをゲットしたんすよ。それまでは俺の実家だったんで、限界が来てたんですよね」
MARIA 「ヤサは大きかったよね。私たちも行きやすくなったし」
QN 「1~2年も毎日のように爆音で音を出してたら、さすがに母ちゃんも〈いい加減にしろ〉って(笑)。引っ越してからすぐにアルバムを録りはじめましたね」
——その間に周りの反応を実感する機会も多くなっていったんじゃないですか?
MARIA 「手応えはTwitterとかでも実感できるけど……そこがすべてじゃないよね」
DyyPRIDE 「あんまり振り回されないようにはしてます」
OMSB 「でも、MA1LLとSkypeで喋ってたら、〈絶対に今年アルバム出したほうがいいよ。じゃなきゃこれからSIMI LABはもう来ないと思うよ~〉って言われて」
QN 「そこまで言われたんだ?」
OMSB 「〈俺もそう思う〉って言った(笑)」
MARIA 「でもね、それは間違いないよね。タイミングは絶妙だったと思います」
本当に良かった
そうやって完成した『Page 1: ANATOMY OF INSANE』。ジャケに写るのは5人にUSOWAとJUMA、先述のMA1LL(デザイナー)を加えた計8人。冒頭からHi'Specの手による“Show Off”がNWAのような集団の凄みを伴って押し寄せてくる。続く“Natural Born”は4MCの不敵な挨拶で威嚇しつつ、各々の個性を伝える自己紹介も兼ねた作りが巧い。スヌーピーなスムースネスを漂わせたQN、荒々しくもリズミックなOMSB、ブルージーにつんのめったDyyPRIDE、芯の太いフロウに飛び道具を仕込んだMARIA。ストイックさとルーズさとユーモラスないきがりを織り成す、そんな各々の魅力を支えるのはユニークなトラックである。今回は「ベース・ミュージック的なものをやりたい時に使う」(OMSB)というWAH NAH MICHEAL名義も含め、OMSB'Eatsが12曲中8曲を制作。PVも話題だったパーカッシヴな“Uncommon”や、6MCが一堂に会した“That's What You Think”には独特のプリミティヴなグルーヴがあるし、一転して“The Blues”では甘いループの憂鬱さにほだされる。本当に格好良くて、耳に染み付いて離れない一作だ。
——アルバム・タイトルはどういう意味?
OMSB 「普通のタイトルはやだなと思ってて……普通って何?って話ですけど(笑)。まあラボなんで研究所っぽいタイトルで」
QN 「狂気とか、イカレてるとか、そういう解剖学のレポートというか。その最初の説明書みたいなイメージですね」
——制作を振り返ってみてどうでした?
DyyPRIDE 「最初は〈やるんだ、フ~ン〉ぐらいだったんだけど、やり出したらバンバンおもしろくなっていきました」
MARIA 「私は初めから燃えてたけどね!」
——DyyPRIDEさんはソロから間もないですけど、意気込みに違いはありましたか?
DyyPRIDE 「ソロは凄く入れ込んでて、『In The Dyyp Shadow』っていうタイトル通りに自分が闇の中にいた時の感情とかを全部出し切って、終わりにしようと思ってたんです。それでもうサッパリして」
MARIA 「前より顔が若くなったよ」
——ソロの時よりも明るいというか、ユーモラスで楽しそうな感じが出てますね。
DyyPRIDE 「今回はそれぞれ違うキャラが立っててバランスがいいし、楽しかったですね。いまは自分が悪かったことも暗かったこともネタでしかないというか。聴いて皆に笑ってもらえればいいかなと」
——OMSさんのビートが多くなったのは?
QN 「俺のイメージするSIMI LABらしさって、OMSのビートなんですよ。なので俺は今回どっちかというとミキシングとかに回って、自分のビートは全体を見ながら、足りない要素に味付けとして入れさせてもらった感じですね」
OMSB 「自分のトラックが多いのは単純に嬉しいです。自分としてはトラックメイカーとしてここにいるつもりなんで」
MARIA 「そうなんだ?」
OMSB 「ラップは引っ込みつかないからやってるだけで。やるのは好きだけどね」
——Hi'Specさんはどうでしたか?
Hi'Spec 「俺から見たSIMI LABのイメージで作ったのが“Show Off”だったんです。俺もバックDJだけだと思われるのはアレなんで、ビートが採用されて嬉しいですね」
——トラックもそうですけど、USOWAさんとJUMAさんを含めたメンバー以外、客演は一切ないんですね。
QN 「SIMI LABは独立してるというか、浮いた存在でいたいんです。アウトキャストみたいにシーンにいすぎない感じが好きだし、そもそも自分らに自信もあったし」
DyyPRIDE 「もともとJUMAは俺がナンパした女の子の彼氏だったんですよ(笑)」
QN 「かつ、俺の実家から30秒ぐらいのとこに住んでることが判明したんです」
MARIA 「それが凄いよね」
QN 「そうやって凄い偶然が重なって集まってるんですよね。同じ学校だったとかじゃなく、たまたまこうなってる」
MARIA 「必然だよ」
——そういえば、最近はメンバーもあまり減らなくなったんですね(笑)。
QN 「前は〈やれる奴だけついてこいよ〉という感じで、俺とOMSがスパルタすぎたんですね。いまは気付いたらダンとMARIAが前を歩いてる、みたいな(笑)」
DyyPRIDE 「みんなたぶん自分がいちばんカッコイイと思ってるし、そうありたいという気持ちでやってるんですよ。その反面、皆のなかの一人でいて本当に良かったというか、凄く満足を覚えることもあって。俺も皆も集団からハジかれてきたし、つるむのも好きじゃないんですけど。いまは集団行動の苦手な連中が集団行動してるっていう感じですね」
QN 「逆にそこが共通点なのかもしれないですね。肌の色もそうだと思うし、そういう部分を全員が根っから持ってんのかな。俺自身も子供の頃からひとりでいるのが好きだったんだけど、共通点のある連中が集まってるのはいいなあと思いますね」
——リスナーのほうも、SIMI LABがいて本当に良かったと思いますよ。この後のプランも見えてますか?
QN 「12月に俺のセカンドが諭吉から出て、年明けにOMS、USOWA、俺とUSOWAのBLACK OYSTER……これはどういう形態かはわかんないですけど。それにMARIAもHi'Specもソロを出すし」
MARIA 「私はやりたいことがありすぎて、90年代っぽいヒップホップもやりたいし、かといって4つ打ちも超好きだし、UKロックとかチルウェイヴも好きなんで、どういい具合にまとめるかは考え中ですけど、ちょっと変わった感じになると思いますね」
OMSB 「その間にうまく入れ込めたら、俺はWAH NAH MICHEALのコンピみたいなのも出したいし……」
QN 「それで来年の12月にはSIMI LABのセカンドを出したいと思ってますね」
MARIA 「とりあえず今回のアルバムで始まるんですけど、最終的にめざすのは日本代表なんでよろしくお願いします、ってことです」
- 次の記事: ディスクガイド


