T-PAIN 『Revolver』
時代のリヴォルヴァーをカチリと回した、あの変声が進化して戻ってきた!! オートチューンが死のうが生きようが、オリジネイターには関係ないぜ!!
必要なブランクだった
「前作をリリースしてからいままでCMとかアニメとか、いろいろな仕事をしている合間にいろんなタイプのオーディエンスを獲得することができたんだよね。だから〈T・ペイン〉っていう既成概念から離れて、また新しいものを作らなきゃと思っていたよ。クラシックなT・ペインを維持しながらも、たくさんのオーディエンスを満足させるものを作っていかなきゃってね」。
オートチューンを用いた超個性的なエフェクト・ヴォイスでエンタメ界を席巻し、その喧騒の真っ只中にリリースされて多くのヒット曲を生んだ前作『Thr33 Ringz』(2008年)から早3年強……ようやくリリースされたT・ペインのニュー・アルバム『Revolver』は、本来であれば2009年に発表されたリル・ジョンとのコラボ“Take Your Shirt Off”を足掛かりに短いスパンで届けられるのかと思われていたのだが、まったく減る気配のない膨大な客演仕事(バン・Bやメイノからロンリー・アイランド、クインシー・ジョーンズまで!)をこなす一方で、T・ペイン自身が語るCMやアニメ仕事以外にも声を変えられるおもちゃのマイク「I Am T-Pain Mic」の発売やアプリの制作といった多岐に渡るサイド・ハッスルに忙殺されたことで結果的にこれだけの期間が空いてしまったようだ。しかしこのアルバム・リリースのブランクも、いまとなっては必然だったように思えてしまう。
「3年というブランクは必要な時間だったんだ。一時はラジオが俺の曲ばっかりになっていたから、みんなに飽きられる前に少し雲隠れして、またスウィートな曲で戻ってこようって考えてたんだ。とにかくパーフェクトな作品ができるまではアルバムは出さないって決めていた」。
とはいえ、その間もDJキャレド“All I Do Is Win”やウィズ・カリファ“Black And Yellow(G-Mix)”、ピットブル“Hey Baby(Dance It To The Floor)”といったビッグ・チューンに参加し、ヒットマンとして好アシストを連発。先の“Take Your Shirt Off”をはじめとする自己名義の楽曲もコンスタントに発表し、T・ペインの歌やラップがメインストリームからストリート、ネット上の隅々まで、とにかくシーン内で途切れることは決してなかったのだ。そして、幾度かの仕切り直しを経てクリス・ブラウンとのコラボ“Best Love Song”、リリー・アレンとウィズ・カリファを招いた“5 O'Clock”とタイプの異なる2曲を先行シングルとしてカットし、『Revolver』のプロジェクトをリスタートさせた。
「“Best Love Song”は少しロックの要素も入ってて、みんなの予想を覆すような、いままでとは違う新しい曲を意識して作った。“5 O'Clock”ももちろんみんなの予想を覆しただろう? 俺はリリー・アレンの音楽が好きで、ああいうタイプの曲も作ってみたかったんだ。なかなか実現しなかったことが叶ったうえに、仕上がりも凄く良かったから満足しているね」。
これほどじっくり作った作品はない
いままでと違う、と言えば、これまでのアルバムでは大半をT・ペインみずからがプロデュースしていたのだが、今作ではナッピー・ボーイのヤング・ファイアやビズネス、T・マイナスら、他者にプロデュースのほとんどを委ねている。アルバムのジャケットをよく見ると、タイトルの『Revolver』(回転式拳銃)というワードの両サイドのRが消え、EVOLVE(進化、発展)という文字が浮かんでいるのが確認できると思うが、その〈EVOLVE〉こそが今作を読み解く重要なキーワードとなっているのだ。プロデュースを任せることでT・ペイン自身はソングライティングに集中することができたということなのだろうか、これまで以上にソングライター/メロディーメイカーとしての一面を強く感じさせ、また外部からフレッシュな息吹を入れることにより、これまで安易に〈オートチューン〉という言葉でばかり語られがちだったT・ペイン・サウンドはよりいっそうの進化を遂げることとなった。
「前作に比べ、今作はもっと冒険している。時間もかけたしね。他のアルバムも急いで作ったことはないけど、今回ほどじっくり作った作品はない。すごく集中してアイデアが浮かんだら消えないうちに確実に音にし、出来た曲も納得するまで何度も聴き直して手を加えたよ。今回は初めて多くの楽曲を他のプロデューサーに依頼していて、特に俺のプロダクション・チーム、ナッピー・ボーイに所属しているヤング・ファイアには多くの楽曲にプロデューサーとして参加してもらったんだ」。
先述したふたつのシングル曲は、まさにソングライター/メロディメイカーとしてのT・ペインの真骨頂だったが、他にもビズネスの手による“Mix'd Girl”や“I Don't Give A Fuck”あたりの印象的なメロディーラインの胸熱チューンがアルバムには多数用意されている。またそのシングル曲だけでなく、アルバム内にも要所にキャラの強いゲスト・アーティストが配されており、特にリル・ウェインとのコンビ=T・ウェインで送る“Bang Bang Pow Pow”やピットブルらとの煌びやかな“It's Not You(It's Me)”、ニーヨをフィーチャーした“Turn All The Lights On”あたりは、移り変わりの激しい現行シーンでも余裕でイケるT・ペインらしいフロア・バンガーだ。
「決まったコンセプトはないけど、たくさんのいい音楽、いいヴァイブ、いい雰囲気……すべてが一体となって、きれいに流れるよう気を配ったかな。テーマは決めなかったけれど、よくまとまっている作品だと思うよ。あと、コンセプトというよりは意識せずに自然にそうなったんだけど、このアルバムはたくさんの音楽がミックスされてる感じなんだ。ちょうどいい分量のポップとラップ、R&Bが入っていて、すごくバランスが良く、アルバム全体的に均整が取れている。今作を俺の最高傑作だという意見は多いね」。
▼T・ペインのアルバムを紹介。
左から、2005年作『Rappa Ternt Sanga』(Konvict/Jive)、2007年作『Epiphany』、2008年作『Thr33 Ringz』(共にNappy Boy/Konvict/Jive)
▼『Revolver』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、リリー・アレンの2009年作『It's Not Me, It's You』(Regal/Parlophone)、ウィズ・カリファの2011年作『Rolling Papers』(Rostrum/Atlantic)、クリス・ブラウンの2011年作『F.A.M.E.』(Jive)、ニーヨの2010年作『Libra Scale』(Def Jam)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2011年12月21日 17:59
更新: 2011年12月21日 17:59
ソース: bounce 339号(2011年12月25日発行号)
構成・文/升本 徹