Salyu 『photogenic』
素直な感情
2月1日に先行カットされた“Lighthouse”や、Mr.Childrenの桜井和寿が作詞作曲を手掛けた“青空”、ホーン・セクションが鮮やかな生命力を描き出す“LIFE(ライフ)”といったシングル曲を含む、Salyuの4作目『photogenic』が完成した。今作は小林武史がプロデューサーを務めるアルバムとしては約5年ぶり。その間にはベスト盤『Merkmal』やセルフ・プロデュース作『MAIDEN VOYAGE』をリリースし、さらに昨年は新たなプロジェクトとしてsalyu × salyuをスタートさせ、コーネリアスこと小山田圭吾とタッグを組んだ。そうした音楽への探究心を持って、ヴォーカリストとしての挑戦を続けてきた彼女が、ふたたびSalyuならではのポップ・ミュージックを提示する。
「今回はすごく、私のなかで音楽にどういうテンションを込めていくか、提案していくかが重要でした。きっと他のアーティストの方もそうだと思うけど、去年の〈3.11〉以降、何を作っていくべきかっていうことと向き合わざるを得なくなった自分たちがいて。というのはやっぱり、文化そのものの価値も考えさせられた出来事だったので。そこで、あえて豊かさの象徴である音楽を担っていく私たち、ポップ・ミュージックを司っている私たちはどういう音やテンションや言葉遣いで振る舞っていくかということと、向き合っていました」。
そんな本作においてはまず、小林武史による歌詞に大きな変化が感じられる。例えば、海の上を漂うような穏やかなメロディーが美しいスロウ・ナンバー“Lighthouse”における〈今日から新しく生まれて/今日から新しく生きていこうよ〉といった明確なメッセージ。そしてどの曲においても、それらの歌たちと向き合うSalyuの歌声が、とても真っ直ぐで、聴いていると晴れやかな気持ちにしてくれる。
「〈素直でいいじゃん〉っていうことが、今回のアルバムにおけるメッセージとしてあると思うんですよね。私個人としては、東日本大震災という出来事を受けて、自分ってすごく弱いものだし、強い人なんていないんだってことがわかった。でも弱い人が強くあり続けようとする力や責任や希望みたいなものが、人間らしさだし、エモーションだと思った。そういうところで、自分の弱さや、もともと自分が持っている人にはないもの、自分だけの強さみたいなものも同時に知っていったように思うんです。そこから出てくる気取らない言葉遣いや欲望やエゴみたいなものが、言葉に散りばめられてると思いました。自分の感覚に対して忠実だし、〈素直な感情〉が今回のアルバムの曲には共通してある気がします。そして私は、人に対する具体的な語りかけというのが、ようやく歌えるようになったんだと思います」。
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