LONG REVIEW――Salyu 『photogenic』
Salyuというアーティスト像の更新を示した4枚目のオリジナル・アルバム。5年ぶりに小林武史をプロデューサーに迎えた本作は、全体的なテイストは彼らしいジェントルなポップスとしてまとまっている。しかし、Salyuのこれまでを追ってきた人は、昨年に繰り広げたsalyu × salyu名義での活動がそこにもう一つの意味合いを与えていることに気付くはずだ。
salyu × salyuとして発表した『s(o)un(d)beams』は、コーネリアスのプロデュースのもと、声の可能性を最大限に追求したアーティスティックなアルバムだった。だからこそ、Salyuとしての作品では大衆性にきっちり向き合う意識も獲得したのだろう。朝の情報番組のオープニング曲となった“magic”、Mr.Childrenの桜井和寿が作詞作曲を担当した“青空”を筆頭に、爽やかなナンバーが並ぶ今回の作品。自分自身の探究心ではなく、聴き手のために音楽を届けるというサーヴィス精神が貫かれている。
先行シングル“Lighthouse”や、ピアノを全面に配した“旅人”などの壮大なナンバーも、彼女の声が持つ類い稀な表現力を感じさせてくれる。明るい曲調の楽曲を歌うときも、壮大なバラードでも、透明で伸びやかな歌声がハイトーンへ向かって昇り詰めていくときに発される決して言葉にできない〈震え〉のようなものこそが、彼女が持つ最大の武器なのだ。そこに誰も真似できない響きがあるからこそ、聴き手は〈祈り〉や〈愛〉のような感情を楽曲に重ね合わせることができる。
ポップスとしての親しみやすさと、唯一無比の生命力を感じさせる声の響き。それらを両翼に、さらなる高みをめざしていく。それがSalyuというアーティストの進む道筋であるということが、鮮やかに示されている。
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