DJ KAWASAKI 『BLACK & GOLD』
[ interview ]
最新オリジナル・アルバム『PARADISE』(2010年)は、歌心溢れるディスコ/ソウルにデトロイト・テクノのエッセンスをミックスさせることで、〈フューチャー・クラシック〉と呼ぶに相応しいDJ KAWASAKIなりの新しいエレクトリック・ハウスを確立した作品として、多くのリスナーを獲得した。
そんな彼の次なる一手は、なんと往年のディスコ・クラシックのカヴァー・アルバム『BLACK & GOLD』だという。『PARADISE』から受け継いだテッキーなアプローチでNYアンダーグラウンドの黒いグルーヴを現代的にアレンジしながら、かつてディフェクテッドやステルスといったレーベルの絶頂期を彷彿とさせるヴォーカル・ハウスのキャッチーで高らかな躍動感に接続する手腕に、懐古主義という言葉では括りきれないクリエイターとしての熱量とプライドがひしひしと感じられる作品と言えるだろう。その裏にあった彼の想いを訊いた。
ディスコ禁止令、からの……
——『PARADISE』は非常に抜けが良くキャッチーなアルバムだったこともあり、カヴァー・アルバムのリリース、しかもダンス・クラシックのカヴァーということで非常に驚いたんですが、これを制作することになった経緯を教えてください。
「『PARADISE』は僕の音楽的なルーツであるデトロイト・テクノの要素と、僕の持ち味でもあるロマンティックでドラマティックな世界感を融合させた〈ロマンテック〉という造語をテーマに制作しました。セオ・パリッシュやムーディーマンといったデトロイト・テクノのDJを改めてじっくり聴いた時に感じたことですが、実は彼らのセットの中心はエディットしたディスコやジャズ、ファンクだったりするんです。テクノをプレイしながらも、彼ら自身の作品でサンプリング・ネタとして使われているようなディスコを間に上手く織り交ぜてかけている。そこで、デトロイト・テクノのDJがプレイするもののなかから僕なりの解釈でブラック・ディスコと呼べる楽曲をセレクトし、カヴァーが出来たらいいなと思ったんです。そういった意味でも今作への取り組みは自然な流れでした。昔の曲でもまったく違うアレンジでカヴァーすることによって新しいものとして聴かせられたらいいなって思いもありましたし、僕がこういった曲を聴いて音楽を作ってきたんだよっていうルーツ・ミュージックの紹介でもあるので、オリジナル曲で構成されたフル・アルバムの前にどうしてもやりたかったんですよね。あとはトレンド的な流れも関係しているように思います」
——と言いますと?
「クリエイターの周辺でディスコやブギー再評価の流れがあったんですよ。僕の周りはもちろん、世界的に見てもディスコのサンプリングを元に作られたハウスは生まれ続けてる。かつてはダフト・パンクもファンカデリックをリミックスしていた(スコット・グルーヴがカヴァーした“Mother Ship Connection”)し、瀧見憲司さんやイジャット・ボーイズ、ダニエル・ウォンといった、ディスコの煌びやかな雰囲気を通過しながら黒いグルーヴが貫かれている、僕が好きなディスコがキている感じがあった。ファッションでも、グッチのデザイナーのフリーダ・ジャンニーニが去年の春夏でテーマにしたのが〈70年代のディスコ〉だったし、いろんな分野にも広がっている感じがあったんです」
——そうだったんですね。ちなみに資料を見て驚いたんですが、今回のKAWASAKIさんの高いモチヴェーションは、師匠である沖野修也さんの命に逆らうほどだったそうじゃないですか。
「いやいや(笑)。ちゃんと説明すると、僕のイメージっていわゆるジャパニーズ・ハウスが流行った2000年代半ばの時期に構築されていて、例えば藤井リナちゃんにジャケット写真のモデルになってもらったり——そういった印象が先行していたんです。で、そうなると、若いファンの方たちって僕が古い音楽を通過しているところまで理解できなかったりするんですよ。だからDJセットのなかで生音のファンクやディスコを混ぜたりしても、渋谷のクラブ・THE ROOMでは盛り上がってるけど、他のクラブではお客さんが引いちゃう場面もあったんです。例えばもっとキラキラしたハウスを聴きたいのに、ジェイムズ・ブラウンをかけると引かれちゃうみたいに……」
——う〜ん、確かに落差はあるかもしれませんね。
「僕は起承転結を考えて、DJセットを通して映画みたいな世界観を作れるように心がけているんですけど、曲単体で反応するお客さんも少なくないから、そういった人たちにマイナスなイメージになるかもしれない。それで沖野さんが、〈お客さんの聴きたいものをかけたほうがいいんじゃないか〉ってディスコ禁止令を出したんです」