INTERVIEW(3)――往年の名曲との勝負
往年の名曲との勝負
——KAWASAKIさんのそういった想いは今回のアルバムにも凝縮されていると思いますが、楽曲をカヴァーする際にディスコのどんなエッセンスを引き出してリスナーにプレゼンしようと思ったんですか?
「やっぱりディスコの持つ煌びやかなイメージ、普遍的ないいメロディーは、僕が曲を作る時にポリシーとして影響を受けた部分だったので、そういったところを伝えたかったですね。メロディーも歌詞も、この時代の曲って本当にしっかりしているんですよ。だから完成された名曲と自分が向き合う作業でもありましたね。自分らしさを出すために、他にないヴァージョンを作ることを意識しました」
——アレンジで苦労した曲はありますか?
「“Ain't No Moutain High Enough”が名曲すぎて、ドラマティックなコードをハメてもどこかで聴いたことがある感じになっちゃう。それであえてダークなコードを付けて原曲とかけ離れた響きを作りました。あと、沖野さんのアイデアでもあったんですけど、歌詞をマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルとダイアナ・ロスのヴァージョンを合体したことで差別化ができましたね」
——あと、アルバムを聴いてて思ったのは、2000年代初頭から中盤にかけてのディフェクテッドやステルスからリリースされた諸作を彷彿とさせる歌ものハウス絶頂期のフィーリングが込められてる感じがするんですよね。
「ピアノの刻みからきてると思います。“Going Back To My Roots”はリッチー・ヘヴンスのヴァージョンのカヴァーなんですけど、あれはリズム・イズ・リズム“Strings Of Life”の元ネタになったって話もあるくらいハウス・ミュージックのすべてのピアノ・リフの元とも言えるパターンなんです。今回はフレーズのニュアンスを変えながらあえて重ねた部分もありますからね。あと、ここ数年はエレクトロが全盛で、やっぱり最近の歌ものハウスって元気がなかったじゃないですか。そんななかで、いい時代のハウスだったりソウルフルでエモーショナルな作品の空気感を融合して新しいものとして提示するというテーマはずっと僕のなかにあったんですよね」
——歌もののハウスが低調になったのはなぜだったんでしょうね?
「単純に歌ものハウスの人たちが曲を作ってなかったり、作風を変えてテッキーなものになっていたりっていうのがありましたよね。それ自体は別に悪いことじゃないけど、猫も杓子もそっちに行ってしまった感はあった。そういう意味ではディスコやブギーが世界的にトレンドとなり、再評価されはじめているのってすごくいいことだと思いますね。どこかで誰かがかけて、それが大きなうねりになっているというのがさらにいい」
ブレなくひとつのことをやり続ける
——そうして往年の名曲と自分の技量がせめぎ合うなか、今作では1曲だけオリジナル曲“Let The Music Play”が収録されてますよね。
「今度は既存の名曲たちと僕の書いたメロの勝負ですよね。自分にすごくハードルの高いお題を与えた部分もありますし、僕の考えるディスコを具現化した形です。これまでの僕の作品ではギターってあんまり入れてないんですけど、アレンジではトッド・テリエがナイル・ロジャースのギターをエディットしたような感じを意識しました」
——確かにあのギターがブギー感を強く出してますね。ヴォーカリストはYouTubeで話題になっていた韓国人シンガー、アップルガールとしても知られるヨヒを抜擢していますよね。
「イメージに合うシンガーを探していた時、YouTubeでレディ・ガガを歌っている彼女を観て、すごくいいなと思ったんですよ。韓国には英語の発音も完璧でクォリティーの高いシンガーが多いんですけど、ヨヒさんは華もあるしイメージに近い感じを持っていましたしね。それで僕からオファーして、ちょうど彼女のデビュー前に実現した感じでした」
——そうしたチョイスにもKAWASAKIさんのプロデューサーやDJとしての主張が表れているように感じますね。
「先物買いじゃないですけど、アーティストもメジャーな人に頼むだけじゃなくて紹介できたらって思うんですよね。DJってある種の水先案内人的な役割を担っていると思うし、幸いにも僕はメジャーでリリースさせていただいてる立場にあるので、そういうことはこれからも積極的にやっていきたいです」
——クラブ・ミュージックに対する風向きは決して良好とは言えないなか、そうしたチャレンジというか攻める姿勢を維持できるのはすごいと思います。
「確かに世間的には決していいとは言えないのかもしれないけど、でも、THE ROOMなんかでパーティーをやっていると盛り上がるし、周辺的な状況で言えば、前よりもいい状況になっている部分もあるんですよね。音楽も発表しやすい時代にもなっている。結局大事なのはブレなくひとつのことをやり続けることかなって思うんです。ずっとやっていたら届く日がくると思うし。かつて親に〈ひとつでもスペシャリストになるものを持ちなさい〉って言われていたの最近思い出すんですけど、そういった姿勢はこれからより大事になっていくのかな、なんて思います。そこにはクリエイターやDJの覚悟が必要になってくるし、発表する人がブレるとお客さんも戸惑う。だからこそ方向を変えるにしても貫くにしても覚悟やプライド、責任をもって作品をリリースしていきたい。それは何でもできるいまだからこそとても大事なことだと思うんです」