LONG REVIEW――高橋 優『この声』
世間的には“福笑い”のヒットで知られる高橋優。〈きっとこの世界の共通言語は/英語じゃなくて笑顔だと思う〉――良い曲である。TVで彼の顔を観る機会も増えた。Perfumeと対談した番組では、自分よりずっと年下の3人を前に終始緊張していた。みんなが共感できるメッセージ・ソングを歌う、純朴な青年……そんな評価が定まりつつあった状況は、彼にとって喜ばしくもあり、もどかしくもあったのかもしれない。
新作『この声』は、ギターのフィードバック・ノイズが轟く“序曲”から、怒涛のバンド・サウンドによる“蛍”で畳み掛け、〈朴訥とした良い人〉のイメージを瞬時に塗り替える(そのうえ、最初に描かれる情景は盛り上がるキャバクラだ)。前作もそうだったが、彼の音楽はまったく一面的ではなく、彼はそこに喜怒哀楽すべてを正直に注ぎ込む。シリアスな曲もチャラい曲もある。ウェディング・ソングになりそうな“あなたとだから歩める道”と並んで、ユーモアを交えつつリビドーを爆発させる“絶頂は今”がある。
そして何度も出てくる〈今〉という言葉。時に彼はブルージーな語り口で……つまり憂いや反骨精神の表れ、現状への異議申し立てとして、その言葉を使う。ゆえに彼の音楽は社会性を伴っているし、その佇まいは桑田佳祐の初期ソロ作を思わせる。
さらにはバンドの演奏はパワフルだし、サウンド・プロデューサーの浅田信一とのリレーションもスムースな模様。ロックなサウンドばかりでなく、ピアノとストリングスをバックにした“セピア”や、セカンドラインのビートを採り入れた“蓋”、オアシス“Whatever”ばりにドラマティックな“誰がために鐘は鳴る”があったりと、さまざまな楽曲で楽しませてくれる。
そして何より、決して美声ではないかもしれないが、熱くて泥臭くて力強い歌唱はますます魅力的だ。この声があればこそ、彼の歌は広く聴かれているのだろう。