インタビュー

高橋 優 『この声』



高橋優『この声』



[ interview ]

矢継ぎ早に放つ言葉で目の前の現実をそのまま切り取り、胸の内を巡る感情を真っ直ぐに吐き出す。そうやって、生身の言葉をメロディーに乗せてきた〈リアルタイム・シンガーソングライター〉、高橋優。本音だけを口にする歌い手がこれまで以上にその素顔をさらけ出したのが、メジャーからの2作目となるアルバム『この声』だ。

〈2ch〉や〈風評〉という言葉を散りばめながらいまの日本社会に巣食う鬱屈したムードを鋭く抉り出す“蛍”から、とりとめもない生活を独白する“一人暮らし”まで、歌のモチーフや雰囲気はさまざま。しかしどの曲からも、歌うことを通して一歩踏み出し、明日に向かおうとする彼の情熱が伝わってくる。

前作が大きくヒットした現在も「自分は決して特別な存在じゃない」と語る彼に、新作に込めた思いと、シンガーとしてのスタンスを訊いた。



ヴァラエティーに富んだ表情や想い



——前作『リアルタイム・シンガーソングライター』の時には、まず一曲一曲良い曲を作って、結果的にそれが集まったアルバムと言っていましたよね。今回はアルバムを作るということを、いつ頃からイメージしていたんでしょうか?

「前のアルバムがリリースされた直後から、次に向けての意識がずっとありました。“誰がために鐘は鳴る”というシングルあたりには、次のアルバムに向けて書いた曲だという印象を持ちながら歌ってましたね。前作は、どれが代表曲になってもいいように作ったものを掻き集めたようなアルバムになった。自分にとって納得のいくものになったけれど、全部を聴いたときに一つの作品に聴こえるようなものも作りたい。それをやらなきゃという気持ちになりました」

——その時点で“誰がために鐘は鳴る”という曲が次のアルバムのキーになるという確信はありました?

「ありました。具体的にどういうアルバムにしたいというのは全然見えてなかったんですけど。“誰がために鐘は鳴る”は、心臓をテーマにした曲なんです。心臓はそもそも動いているわけで、無機質な機械ですら誰かの意志があってスイッチがオンにならなければ動き出さない。だから、われわれが生きている意味というのもどこかにあるんじゃないかという歌。でも、その一曲だけじゃ完結しないと思ったんです。この曲は自分が歌いたいと思っていることの、ごく一部でしかない、と。他の曲も歌わないと、と思いました」

——〈それはそれで歌いたいことだけど、他にこういう自分もいるよ〉という曲がどんどん広がってアルバムになっていった、と。

「そうですね。この曲を聴いてもらうなら、他にこんな曲も聴いてほしいという気持ちが芽生えた。あんまり真面目じゃない自分もやっぱりいるや、とか。アルバム全体では、いろんな自分がいるなかでの一つの表情だなあ、という印象がありました」

――そう思うようになったきっかけのようなものはありました?

「全国ツアーを回ったことが大きかったですね。前回のアルバムで表現してきたのは割とシリアスなことだったし、その後にリリースしたシングルは全部バラードに近いもので。それは自分の印象を決定付けるものだったと思うんですね。でもツアーでは、エッチな歌や、ぶっきらぼうな男の子のヘンテコリンな歌を歌うと会場がいちばん盛り上がる。そういう現象もまのあたりにして、そっちも許されるなら出したいというのがあったんですね。前回のアルバムでもっとも表現されてない部分でもあると思ったし。だから、今回のアルバムでは前回以上にヴァラエティーに富んだ表情や想いのあるものにしたいと思ったんです」


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掲載: 2012年03月14日 18:01

更新: 2012年03月14日 18:01

インタヴュー・文/柴 那典