LONG REVIEWーー一十三十一『CITY DIVE』& LIVE INFO
安易なかつてのシティー・ポップ回帰作にあらず!
作品ごとにクリエイターを替え、自身もカメレオンのように歌い手としてのカラーを替えてきた一十三十一が、ここにきてようやく自分の居場所を見つけたようだ。それこそ〈シティー・ポップの住民〉、それも〈夜の都会の景色に誘う水先案内人〉といったところだろうか。
オリジナル・アルバムとしては5年ぶりとなる『CITY DIVE』。例えば、爽快なミディアムでリズミカルに聴かせる“恋は思いのまま”などはシュガーベイブ“DOWN TOWN”への現代からの返答歌とも取れるし、リズム・セクションがシャープな切れ味を見せる“ハーバーライト”は寺尾聡の名作『REFLECTIONS』を手掛けた井上鑑の仕事を思い出させ、“摩天楼の恋人”はユーミンの曲を歌った時のハイ・ファイ・セットのような心地良さを纏っている。一言で言えば、AORやフュージョン、クロスオーヴァーなどを視野に入れた洗練された世界で、一十三十一は何とも気持ち良さげに歌っているのだ。
どの曲も決して安易なシティー・ポップ回帰ではなく、ハウス・ミュージックをあたりまえのように聴いて音楽を始めたクリエイター特有のビート感と、他ジャンルと接合する柔軟性を伴っているのが大きなポイント。本作をプロデュースしたのが流線形のクニモンド瀧口で、音作りにおいてサポートしたのがDORIANとKashif a.k.a. STRINGSBURNと知れば、納得する人も多いのではないだろうか。確かに、若い世代の間では70〜80年代型のシティー・ポップは見直されている。特にそのDORIANをはじめOORUTAICHIややけのはら、あるいは鴨田潤とTraks Boysから成る(((さらうんど)))の作品を聴くと、それをフロア感覚で捉え直そうとする動きとして伝わってくるだろう。そうした傾向のなかで、そもそも歌唱力のある一十三十一が作り上げた本作の意義は大きい。ここには本来ジャズやファンクのカジュアルな発展形でもあったAORやフュージョンを、〈シティー・ポップ〉としてわかりやすく伝えようとする拓かれた目線があるからだ。そう、かつての大貫妙子や吉田美奈子がそうだったように。
一十三十一 with 流線形 feat. Dorian & Kashif (PPP) - sings 『CITY DIVE』-
会場:ビルボードライブ東京
日程:9/2(日)1st 開場15:30 開演16:30 2nd 開場18:30 開演19:30
料金:自由席¥6800 / カジュアル¥4800(1ドリンク付)
BBL会員予約開始:6/22(金) 一般予約開始:6/29(金)
ご予約・お問い合わせ:ビルボードライブ東京 03-3405-1133、ビルボードライブ・ホームページ www.billboard-live.com
- 前の記事: INTERVIEW(4)――キザい歌詞が大好き