インタビュー

LONG REVIEW――Plastic Tree “シオン”



時間をかけて、遠く広く



PlasticTree_J170

初回限定盤Aのカップリングに収録された有村竜太朗によるアコギの弾き語りヴァージョンが、おそらく原曲なのだろう。ブリッジ以外はほぼ同じコード進行を繰り返すシンプルな曲で、演奏のダイナミズムでグイグイ持っていくタイプの曲とは異なり、ここでの主役はあきらかに〈歌〉だ。

バンド・ヴァージョンにアレンジされた“シオン”は非常に緻密な構成で、アコギのみ→リズムin→ラウドなバンド・サウンドの進行に則り、1番のサビ前にドラムンベース的なトリッキーなリズムを挿入したり、2番のスタートはガット・ギターのような音色で変化をつけたり、聴覚的に楽しめるさまざまな工夫はあるものの、基本的には竜太朗のふんわりとした歌がいつもど真ん中に浮かんでいる。

轟音と浮遊というPlastic Treeならではのサウンド的な命題を踏まえたうえで、哀感をたっぷりと湛えた美しいメロディーをさりげなくも堂々と聴かせるところに、彼らが持っている独特のポピュラリティーが集約されている。どことなく初期レディオヘッドの叙情性を思い起こさせる瞬間もあって、いま、こういう音をちゃんと出せるバンドはなかなか珍しいような気がする。

〈紫苑(シオン)〉はキク科の多年草で、花言葉は〈追憶〉〈遠くにいる人を想う〉。歌詞も、いかも竜太朗らしい切実さとロマンティシズムとが重なり合う映像的な描写を駆使した、孤独のなかで君を想うラヴソングの逸品だ。シングルとして押しの強い超個性派とは言えないかもしれないが、時間をかけてじんわりと遠く広く伝わってゆくタイプの曲だと思う。


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掲載: 2012年09月05日 18:01

更新: 2012年09月05日 18:01

文/宮本英夫