LONG REVIEW——MERRY 『MERRY VERY BEST 〜白い羊/黒い羊〜』
この道標を通過し、独自の〈レトロック〉はさらに先へ
結成10周年を迎えた2011年11月に恵比寿LIQUIDROOMにて開催された6夜連続公演〈NEW LEGEND OF HIGH COLOR「6DAYS」〉。同年にリリースされた最新作『Beautiful Freaks』以外の6枚のアルバムのタイトルをそれぞれの日程に冠した同イヴェントを収めたDVDが発表されたばかりだが、そこから1か月半というスパンで今度はベスト盤『MERRY VERY BEST~白い羊/黒い羊~』が到着した。帯にも記載されている通りに〈レトロ+ロック=レトロック〉を標榜する彼らだが、本作は大まかに分けると彼らの哀愁歌謡的な側面を堪能できる〈白い羊〉盤と、ツイン・ギター/ドラムス/ベース/ヴォーカルという5人のメンバーのみで繰り出すソリッドなバンド・アンサンブルを前面に押し出した〈黒い羊〉盤の2枚組となっている。
本作には未収録だが、かつてカヴァーした青江三奈“伊勢佐木町ブルース”が見事にハマっていたガラの歌声と詞世界からは、昭和歌謡が孕んでいた匂い立つようなエロスと叙情的な陰影、うらぶれた見世物小屋の持つ見てはいけないものを覗き込むようないかがわしさが滲んでいる。 そうしたモチーフをヴィヴィッドに浮き上がらせるパンキッシュなサウンドも、“六本木ジャジー喫茶”“躊躇いシャッフル”など曲名にも顕著なジャズ・マナーのビートが随所に盛り込まれており、懐古的なムードとやり場のない憂いをヴァリエーション豊かに増長。ジプシー風の曲調とあてどなく漂泊する主人公の心情とがシンクロする“日ノ出町、街角ツンデレラ~2番ホーム篇~”は、なかでも独特の世界観を作り上げている。
一方の〈黒い羊〉は、学級机の上で三点倒立をしては造り物のウサギの頭部をかぶって踊り、墨汁を一気飲みするフロントマンをはじめ、ステージ上の5人の姿がまざまざと目に浮かぶライヴ感のある20曲がテンポよく連なっている。クリーン/ディストーションと音色をスピーディーにスイッチする2本のギターはデッドヒートの如くスリリングなリフの掛け合いを繰り広げ、並走する屈強なリズムがボトムをガッチリと支える。そんな楽器陣と呼応してガラの歌唱も〈白い羊〉からは大きく変貌。シャウト~デス・ヴォイスと目まぐるしく変化する声を駆使して哀愁の背後にカオティックな狂気をちらつかせ、5人が強固に絡み合った太いバンド・アンサンブルが、氾濫した濁流のような勢いで聴き手の脳内へと流れ込んでくる。
今年3月に行われた初のZepp Tokyo公演の際にリスナーからリクエストを募ったセットリストの内容も反映させただけあって、これまでのMERRYというバンドを知るには最適の全36曲。今年5月にはシングル“群青”も発表しており、すでに彼らはこの地点から先へと歩みを進めているが、選りすぐりの名曲たちが揃った本作が、今後も変わりゆくであろう5人のひとつの道標となるのは間違いない。
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