DEADMAU5 『> album title goes here <』
みんながネズミに夢チュー!! 世界が大チュー目するなかで投下されたデッドマウスのニュー・アルバムは……チューチューうるせえんだにゃんにゃんにゃん!!!
「音源をただ流して、一晩中そこに突っ立って拳を掲げていることもできるし、そうやっても、誰も文句は言わないだろう」。
そのように語るデッドマウスはしかし、用意した音源セットをPCから再生するだけの〈セレブDJ〉でいようとはしない。現場でトラックを組み合わせたり分解したり、映像と同期させたりしながら展開される彼のプレイは、常にチャレンジングな領域にある。馬鹿馬鹿しくも楽しいかぶりもの(マウスヘッド)で表情を隠しながら、彼はいつもエレクトロニック・ダンス・ミュージックの可能性を真摯に追求しているのだ。
PCの中で発見したネズミの死骸に由来するネーミングももはや奇矯なものには思えないほど、トロントを拠点とするデッドマウスの勇名は世界中に轟いている。言うまでもなく、彼の主宰するマウストラップがスクリレックスらを輩出したことでその名声を後押しした部分も大きいだろうし、そのことが裏付けとなって、ビルボード誌などUSのメディアがこぞって再定義しようとしているEDMというワードは、彼を引き合いに出して語られることが多い。本人も「ダンス・ミュージックの歩みに俺が影響を与えられたのは嬉しく思っているよ」と語ってはいるが、彼はいわゆるブロステップ(その原型となるウォブリーな〈レイヴ・パート〉を早くから楽曲中に盛り込んでいたことはあるが)をシグネチャー・サウンドにしているわけではないし、アーバン・ミュージックと分ち難く結び付いた昨今のEDMトレンドにおもねっているわけでもない。基本に忠実なプログレッシヴ〜エレクトロ・ハウスをデッドマウス印のビッグ・チューンに磨き上げていっているだけだ。何かが新しい呼び名で大雑把に括られようと、新しいタグがそこに付与されようと、そうなる前もそうなる後も彼は彼のスタイルを貫き続けているだけなのだ。
そんな状況下でリリースされたのが、2010年のヒット作『4×4=12』(日本では『デッドマウス』として昨年登場)以来となるオリジナル・アルバム『> album title goes here <』だ。邦題は直訳で〈>ココにタイトルを入力<〉。かつても『Random Album Title』(2008年)という人を喰った表題を付けている前科持ちだけにそれはそれとして、肝心の中身ではいままで以上に豪華なコラボレーターを迎えており、その意味ではブームの恩恵を上手く利用した結果だとも言えそうだ。まず、今年のグラミー授賞式でフー・ファイターズとの共演を喜んでいた彼だけあって(それ以前にはトミー・リーと仕事をしていたこともある)、お気に入りのロック・バンドと思しきマイ・ケミカル・ロマンスからシンガーのジェラルド・ウェイを招聘。ヘヴィーな轟音と個性的な歌唱のぶつかり合いが刺激的な、その“Professional Griefers”に先駆けてシングル・カットされていた“The Veldt”にはクリス・ジェイムズをフィーチャー。さらにはラスコとのブロステップEPが話題になっているサイプレス・ヒルを“Failbait”に、そして意外にもロンドンのシンガー・ソングライターであるイモージェン・ヒープを“Telemiscommunications”にフィーチャーしている。また、前作でガッチリ組んでいた(北米でリリース契約している)ウルトラのレーベルメイト、ウルフガング・ガートナーとは今回も“Channel 42”で手合わせを果たしている。そのいずれもが、大きくクロスオーヴァーを望んで枠をはみ出すこともない、下世話にしてストイックなデッドマウス流のサウンドに仕上がっていることは言うまでもないはずだ。
なお、今年の〈Ultra Music Festival〉に出演したマドンナが、ドラッグを連想させるようなアオリで客に呼びかけた際、デッドマウスがTwitterで激怒したという出来事があった。いわく〈何十年もこの仕事をやってきて、いまさらドラッグを持ち出さないと盛り上がれないのか?〉——ダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックにまつわるジレンマや偏見も意識しながら、デッドマウスはそのサウンドだけで満場のクラウドを、そして世界をナチュラル・ハイなダンス越天楽に連れていくことだろう。
★EDMについて解説するbounceの連載〈Di(s)ctionary〉第48回はこちらから
▼デッドマウスの作品を一部紹介。
左から、2008年作『Random Album Title』、2009年作『For Lack Of A Better Name』、2010年作『4×4=12』(すべてMau5trap)
▼『> album title goes here <』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ウルフガング・ガートナーの2011年作『Weekend In America』(Ultra)、マイ・ケミカル・ロマンスの2010年作『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』(Reprise)、サイプレス・ヒル&ラスコの2012年作『Cypress X Rusko』(Universal Republic)、イモージェン・ヒープの2009年作『Ellipse』(Megaphonic/RCA)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年09月26日 17:59
更新: 2012年09月26日 17:59
ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)
構成・文/轟ひろみ