lynch. “LIGHTNING”
[ interview ]
向かうところ敵なし――昨今のlynch.のライヴからは、そんな言葉が自然と浮かぶ。もちろん、それは楽曲についても同様だ。今年6月に発表されたアルバム『INFERIORITY COMPLEX』であきらかなように、叙情的なメロディーを湛えたアグレッシヴなサウンドからは、やはり実演での即効性の高さが滲み出ている。そんな彼らが新たな領域へと踏み出そうとする姿勢を感じさせるのが、最新シングル“LIGHTNING”だ。ここに綴られた確たるメッセージはどのようにリスナーに伝わっていくのか。lynch.を未体験の人にこそ触れてほしい本作について、葉月(ヴォーカル)に訊いた。
ホントにダメか、無茶苦茶良いか
――アルバム『INFERIORITY COMPLEX』に伴って今夏に行われた全国28公演のツアー〈THE FATAL EXPERIENCE〉は、各地でかなり熱いパフォーマンスが繰り広げられたようですが、会場をすべてライヴハウスに設定したのも特徴的でしたね。
「『INFERIORITY COMPLEX』の曲がそうさせたというか、そういう会場が似合うだろうと単純に思ったんですよ。メジャーに上がってからわりとポンポンと会場の規模を上げてくることができて、例えば今年の頭にはZepp Tokyoを成功させることができた。じゃあ次はどこなんだというときに、それぐらいの大きな規模で全国でやろうとすると、本数が圧倒的に少なくなっちゃうんですよね。それこそ東名阪だけになってしまうかもしれない。でもそれはlynch.的にどうなんだろうと思いますからね。それなら逆の発想で小さいところでたくさんやろうと。そういう流れですね」
――予想通りと言いますか、チケットはソールドアウトを連発していましたが、実際に回ってみて、どんな感触だったんでしょう?
「ひたすらガムシャラにやってた感じだったんですけど、いままでよりも決めごとがないツアーだったような気がします。ここで間はこれぐらい空けますとか、この曲の前には必ずこのMCをしますとか。それこそアンコールの曲順も一切決めず、勢いのみでやってた感じはありますね。楽しければ楽しいほど、盛り上がれば盛り上がるほど、どんどんそういうところも狂っていくんですよ(笑)」
――それを想定して、決めごとを少なくしたんですか?
「そうです。基本的なセットリスト以外はね。制約があればあるほど底上げはできるし、ダメだった場合の被害は少ないんですけど、リミッターがかかっちゃって、良かった場合の限界値も低い気がして。それがイヤだったんですね。だから、ホントにダメなのか、無茶苦茶良いのか、そんな空気を楽しみたかったんですね。だから良いときはホントに突き抜けられたし」
――とにかくlynch.は〈ライヴが凄い〉という一定の評価はなされていますが、メンバー自身は現状維持を望んでいるわけではなく、さらにその上をめざす姿勢が表れていたわけですね。ところで、葉月くんはツアー中にも曲作りを行なっていると公言してきてますが、僕が観た千葉の柏公演では、終演後の楽屋ですでにパソコンを立ち上げて作業をしていたから驚かされましたよ。この人はどれだけ創造意欲の塊なんだろうと(笑)。
「ははは(笑)。でも、ツアー中はライヴをするのがあたりまえすぎて、ホントに5分前に飯を食ってたりとか、それこそ終わった瞬間に曲作りを始めたりとか、僕としては全然普通なんですけどね。でも、あのときに手掛けていたのが“LIGHTNING”ですよ」
わかりやすい部分だけが残った
――ええ。最新シングルのタイトル・トラックですね。これは『INFERIORITY COMPLEX』の次に出る曲だという意識のもとに作られていたんですか?
「いや、特に意識はしなかったですね。いつもはアルバムを経て、次はこういうものをやろうというアイデアがあったりするんですけど、今回はフラットな状態で、テーマを決めずに作ろうということで。ただ、一つだけ自分のなかにあったのが、いままでlynch.を聴いたことがない、知らない人にも届く曲にしたいと思ってて。それはプロモーション云々というよりも、曲の持つ突き抜ける力だったり、歌詞で言えば、ラジオやTVで一瞬でも流れただけで、耳が引き寄せられる力があるとか。そういうものを突き詰めていきたい気持ちはありましたね。だから、初めてレコード会社とか事務所、マネージャーに相談したんです。〈もっとたくさんの人に聴いてほしいんですけど、どうしたらいいですか〉と。いままでは〈好きにやらせてくれ〉と言ってたんで、何も言われなかったんですけど、〈ならばそういう目線でデモを聴くから持ってきてくれ〉と。そしたら、めちゃめちゃ厳しくて(笑)。いままで届かなかった人に届けたいんだから、いままでと同じことをやっていてもダメでしょうと。それはそうだなと思いつつ(笑)。だから、“LIGHTNING”だけでもデモは20パターンぐらいあったんですよ。提出してはダメ出しがあって、修正して。その繰り返しでしたね。初めてここまで作り直しましたよ」
――ただ、〈もっと届くものにしたい〉という話は、以前にも出ていたじゃないですか。
「そうですね。僕はバンドを始めたときから、基本的にずっとそうなんですよ。でもいままでは、メジャーの宣伝力に『INFERIORITY COMPLEX』のような激しいサウンドを乗せたら、どれぐらいのリアクションが返ってくるんだろう?と。ちょっと変わった実験的な方法、誰もやってないことをやるぜみたいな感じでいろいろ投げてみてたんですよ。そこが今回は、もっとたくさんの人に届けたいという欲に対して、素直に初めて向き合ったかもしれない。だけどもちろん、アレンジャーなり作曲家なりを入れたり、作詞家の人に書いてもらったり、操り人形みたいにやってるわけじゃない。lynch.というバンドが何をやれば、たくさんの人に響くのか。lynch.という色のなかでどう表現すればいちばんいいのか。それを周りの人たちが引き出した感じになってるんですかね。だから、音楽的には変わってないと思います」
――そう。だからイントロを聴いた瞬間に、そのアグレッシヴさやメロディーにlynch.らしさを実感できる。
「そうですね。言うなれば、余計なものがなくなったというか、贅肉を落としたような感じになったかなと思ってるんですけどね。lynch.のわかりやすい部分だけが残った気がします。一般的にもっとも意外に思われるのが歌詞だと思うんですけど、そこをどう捉えるかですね」