bomi 『メニー・ア・マール』
いまやりたいことを存分に詰め込んで、はっきりと自身の個性を打ち出した初のフル・アルバム! ちょっとだけ現実から離れたポップ・ミュージックが軽快に鳴り響いているよ!
bomiの〈核〉だけが残った
「色気、欲しいですね。5年後くらいにはハスキーで艶っぽい声になるように、少しずつ呑んべえになって声を枯らしていこうと思ってて(笑)」——なんて、bounceをめくりながら〈セクシー化計画〉について語る、まだ少女の面影を残したbomi。〈ガーリー〉なんて言葉がぴったりのキュートなオーラを発しながら、女心は次なるステージをめざして野望に燃えている……というか、いまの彼女は何だって挑戦するし受けて立つ、そんなパワーに満ち溢れているのだ。昨年7月にタワレコ限定で初のミニ・アルバム『Gyao! Gyappy!! Gyappi-ng!!!』をリリースし、今年6月にメジャー・デビュー・ミニ・アルバム『キーゼルバッファ』を発表——と順調にリリースを重ね、ついにファースト・フル・アルバム『メニー・ア・マール』を完成させた。
「ミニ・アルバムだと限られた曲のなかで自分がやりたいことをどう表現したらいいんだろうって考えて、どんどん(やりたいことを)盛ってしまうんですよね。でも、今回は12曲も入れられたので、盛りすぎたところが平らになって、ゴロっとしたbomiの〈核〉みたいなところだけが残った気がします」。
〈平らになった〉と言っても、シンプルになったわけではない。エレクトロとロックンロールが火花を散らしてミラーボールのような輝きを放つ新作は、どの曲もエッジがピンと立っている。ダンサブルでパンキッシュでキャッチーで、彼女がデビューする際に影響を受けたCSSやヤー・ヤー・ヤーズなど、海外のインディー・ロックへのシンパシーがダイレクトに伝わってくるアルバムだ。
「好きなものに出会うと真似っこしたくなっちゃうんですよね(笑)。ナマな感じとエレクトロが混ざっている音とか、ラップなんだか喋っているのかわからない歌とか、〈スゴい! 私もああいうのしたい〉ってワクワクして。今回のアルバムもそういう洋楽っぽい作りになったと思います」。
彼女にとっての〈洋楽っぽさ〉とは「ギターのリフの感じ」だという。そこを見事に実現させているのが、曲作りのパートナーであり、bomiとしての活動初期からの付き合いとなるプロデューサー・wtfだ。
「今回のアルバムもギターのリフがサウンドの要だと思っていて。wtfはすごく特徴的なギターのリフを出してくるし、音色に対するこだわりもすごくある。こういう洋楽っぽい曲は私には作れないと思って、最初は彼の作ったトラックに私が歌詞を乗せていたんですけど、最近はいっしょに作るようになりました。〈こういうリフが出来たんだけど、この後のメロディーをどうしようか?〉って言われたりして。だから気持ち的にはセッションしながらいっしょに作ってる感じですね」。
地上から1cmだけ足が浮いている世界
アルバムのオープニングを飾るのは、引っ掻くようなギター・ノイズが暴れ回り、そこにチアガール風のコーラスが加わって一気にテンションを上げる“BIG BANG!!”。「1曲目は楽しく、〈始まるぜ! ワーッ〉みたいな雰囲気にしたかったんです。アルバムのイメージを決めるのは1曲目だと思って」という気持ちがそのまま曲に表れている。そこから「ギターのリフがカッコ良くてライヴでも人気」の“薄目のプリンセス”へと雪崩れ込む。〈見つめあったジェリー・ビーンズ〉〈いたずらなフェアリー・テイル〉〈ガラスの靴はどこにもなくて〉——ガーリーなキーワードが歌詞に散りばめられたこのラヴソングは、bomiいわく「王道の少女漫画の世界。ちょっと夢を見すぎてズッコケてる感じ(笑)」——かと思ったら、“麹町のスネーク”では仕事に追われるOLのハードコアな日常を歌っていたりと、曲ごとの世界観やリリックのユニークさも魅力だ。なかでも“パンゲロスの定理”は、シュールな言葉遊びに加えてラップのような〈語り〉も披露する異色のナンバー。
「もう意味のある歌詞は(書かなくて)いいかな、と思って。この曲は最終的に〈パンゲロスって何?〉と思わせたらこっちの勝ちかな(笑)。これまで“麹町のスネーク”とか、わりとラップっぽい歌い方の曲は作ってきたんですけどだんだんパターンがなくなってきて、それでこの曲ではパーッと喋ってみたんです。私、酔っぱらうとパーッと喋り出して、そこに動きが付いてラップみたいになるらしいんですよ、覚えてないけど(笑)。それが出たのかもしれない」。
そのほか、呪文みたいなサビのメロディーが頭から離れないエレポップ“Rock'n Roll TAKADA-KUN”や、彼女が作曲も手掛けたドリーミーなバラード“シャルロットの子守唄”、映画「今日、恋をはじめます」のテーマソングとして書き下ろされた“エクレア”など多彩なナンバーが並ぶなか、曲ごとにさまざまなヒロインを演じる歌声はパワフルで表情豊か。歌い手としてキャリアをスタートしてからこれまでに培ってきた表現力をベースにして、彼女は新たな魅力を鮮やかに開花させた。
「自分で曲を作って歌っていた頃は、きっちり作って上手く歌おうと努力してたんですよ。でもwtfに出会ったり、インディー・ロックを聴くようになったりしてから、隙のある音楽が好きになってきた。綺麗に歌えるよりもニュアンスが出せる曲のほうがおもしろいんじゃないかって。でも、昔もいまもその時にできることを一生懸命やるってことは同じなんですけどね」。
そしていま、彼女が音楽を作っていくうえで大切にしているのは〈軽やかさ〉だという。それは「シンガー・ソングライター的な心情吐露に寄りすぎず、ブッ飛びすぎたりもせず、地上から1cmだけ足が浮いている世界なんです」。そんなわけでアルバムを聴くと、こちらもふわりと身軽になって、現実からちょっぴり浮いた〈bomiワールド〉へ散歩に出掛けたくなる。計画通りにいけば、これからセクシーになっていくであろう彼女の初々しくもポップな出発点とも言える本作。ここにはbomiの可能性がたっぷり詰まっているのだ。
- 次の記事: これまでの目に〜余〜る作品!
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年11月20日 15:40
更新: 2012年11月20日 15:40
ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)
インタヴュー・文/村尾泰郎