Yun*chi 『Yun*chi』
床に反射させた自身の姿をもとに唇のシルエットを浮かび上がらせるという、吉田ユニが手掛けたトリッキーなアーティスト写真。唇形のマスクを被ったバック・ダンサー〈RIP DANCERS〉やさまざまなグラフィックで唇を大フィーチャーした、浜根玲奈監督によるメジャー・デビュー作『Yun*chi』のリード曲“Reverb*”のPV。いま注目の新進女性クリエイターたちとの化学反応から生まれたヴォーカリスト・Yun*chiのキー・ヴィジュアルは、どれも唇を全面プッシュしているのが特徴だ。
「〈唇=Yun*chiの声〉というイメージなんですけど。初めてお会いした方にはまず〈声、変わってますよね〉と必ず言われるんですよ」。
身長が150cmで、靴のサイズは22cm。「まだ子供用サイズで全然イケますよ!!」と全身に明るいオーラをたっぷり纏って元気にそう話す彼女の声は、確かに変わってる。
「今回のアルバムについても、よく〈オートチューン使ってる?〉って訊かれるんですけど、使ってないんですよ。ちっちゃい頃からお祭りでヘリウムガスを吸っても声が変わらないという逸話があるぐらい(笑)、昔から声自体が高くてケロケロ(・ヴォイス)なんです」。
だが高校時代に「私は人とは違う変な声質なんだ」と自覚したときは、自分の声が嫌いになったという。
「これは良くないことなのかなと思って低い声で喋る練習までしたんですけど、それはそれでさらに変な声になってしまって(笑)」。
いつも歌を口ずさんでいた母、物心付いた頃から習っていたジャズ・ダンスを通して音楽、そして歌うことが自然と身体に染みついていたYun*chiはそこで考えた。人と違うことは、裏返せば自分にしかないものを持っているということ。「この声で歌ったら変な声がすごい武器になるんじゃないか」という発想の転換から、本格的に歌手をめざし出すのだ。ブログやMySpaceなどを立ち上げ、早くからニコニコ動画やSNSを駆使して、〈自分のこの変な声と化学反応してステキなものを生み出せるクリエイター〉をみずから探し出してはアタックしていった。
「今回、アルバムではlivetuneのkzさん、浅田祐介(U-SKE)さん、AvecAvec(細川拓久真)さんといっしょにやらせてもらってるんですけど。全員、私が突撃して会いに行って〈私の声を使っていっしょにやったらこんな化学反応が楽しめると思うんです〉って直接口説き落としたクリエイターばかりなんです(笑)」。
例えば本作で“Reverse*”“Believe*”をプロデュースしたkzのことは、彼がニコ動で話題になる前から目をつけていたという。
「kzさんが初音ミクに歌わせる曲は限界まで高音域を使って作った曲が多いんですね。それを〈私の生声で歌ったらおもしろいんじゃないかと勝手に思ってるんですけど〉ってことを伝えて生まれたのが“Believe*”なんです」。
そのkzは星空まで突き抜けていきそうなほどに気持ち良いダンサブルなポップ・チューンを提供し、初期のCharaのプロデューサーとしてあの独特の声を操ってきたU-SKEはYun*chiの声に美メロ・バラードを組み合わせて大人っぽさを引き出していたりなど、本作は楽曲によってさまざまな変化を起こす彼女の声を楽しめる作品に。そして「曲を聴いた人みんなが星のようにキラキラしてくれたら」という願いを込め、それぞれのタイトルには彼女のトレードマークである〈*〉をつけた。
「名前の〈*〉には〈小さな星〉という意味があって。私はまだ歌を歌う人の原石で、ここから大きくなって日本を代表する歌手になるぞという願いを込めて、この記号を入れました。そして、将来はこの声で世界征服したいです!!」。
PROFILE/Yun*chi
5月29日生まれのヴォーカリスト。幼少時より歌やダンスに親しみながら育ち、2000年代後半よりライヴ活動やオリジナル曲の制作を開始。2010年にJulie Watai撮影の写真集「はーどうぇあ・がーるず」にモデルとして登場し、脚光を浴びる。同年末にコンピ『TamStar Records Collection Vol.0』にkz(livetune)プロデュースの“Believe*”を提供。翌年にかけて、Jazzin' park“ユメノトビラ”やコンピ『I §TOKYO〜FOR ANIME MUSIC LOVERS〜』などさまざまな作品に参加していく。今年に入ってからはRAM RIDER“wink*”やkz“sign”などに客演。さらなる注目を集めるなか、このたびメジャー・デビュー作となるファースト・ミニ・アルバム『Yun*chi』(クラウン)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年12月21日 19:00
更新: 2012年12月21日 19:00
ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)
インタヴュー・文/東條祥恵