OKAMOTO'S 『OKAMOTO'S』
10代のバンドがやんちゃにロックンロールを鳴らす。そんな少年期を過ぎて大人になった彼らが、真摯に追求した変革——セルフ・タイトルを掲げて〈愛〉を叫ぶ傑作です!
好きなことをやるだけではダメ
「若いのに古い音楽をよく知ってるとか、もちろんそうかもしれないんですけど、それだけじゃないよって違和感がずっとあったんですよね」(オカモトコウキ、ギター)。
「やりたいことは明確にあったんです。でも、それがちゃんと作品で体現できていたかっていうと……。俺らは全力でやっていたし満足もしているけど、もっとちゃんと届けないとっていう思いはありましたね。〈バカテク〉って言われますけど、それはもうまったくもって見当違いだし(笑)、それより僕らは音楽に詳しい人だけじゃなく、広くいろんなリスナーを巻き込みたいと思っているんです。今回は結果としてそこを達成できる作品になったなという手応えはありますね」(ハマ・オカモト、ベース)。
OKAMOTO'Sのメジャー4作目……いや、もしかするとここからが本当のスタート!——そう言ってもいいだろう。ニュー・アルバム、その名も『OKAMOTO'S』は、そう力強く断言できる渾身の一枚に仕上がった。確かに彼らは当初から60年代スタイルのロックンロール指向で知られていたが、一方で〈ヒップホップだってクラブ・ミュージックだって大好き〉と公言するような根っからの音楽好き。また、当時10代とは思えないソングライティング能力の高さも特筆すべきものだった。いい曲をみんなで作って奏でることこそがバンドの醍醐味、とでも言うような基本哲学をオリジナルの楽曲でしっかり表現しようとする、ひたむきで自覚的な姿勢は、OKAMOTO'Sがデビュー当時から備えていたものだ。だが、彼らは新作でこれまでとは大きく意識を変えた部分があるという。
「〈音楽家〉と〈音楽好き〉の違いみたいなものですね。もちろん僕らは音楽好きなんです。そこは変わらない。でも、セールスとか広がり方をもっと考えて作ったり、演奏しないといけないと思うようになったんです。いい曲が出来た、じゃあそれをどういうふうに届けるのか、というところまでを考えるのが音楽家の仕事。提供の仕方なんです。例えば、僕らはいままでお風呂にポンと、いい入浴剤を放り込んできたけど、お湯の温度設定をあまり考えてなかったから、その入浴剤があまり溶けなかったんです。塊のままだった。つまり、〈お客さんというお湯〉に上手く届けることができてなかったんです。リスナーをお湯に例えるのもどうかと思いますけど(笑)、でも今回はちゃんと溶けるようにしないと、と考えて曲を仕上げましたね」(ハマ)。
「次、勝負でしょ!っていうのがメンバーみんなわかっていたんです。新しいところに向かうタイミングが来ている実感があった。その時に、ただ好きなことを好きなようにやるだけではダメだってことに気付いたんです」(オカモトレイジ、ドラムス)。
『OKAMOTO'S』には、実に14曲ものオリジナル・ナンバーが収録されている。毎度のお楽しみとなっていたカヴァーこそないが、曲調の幅広さと効果的なアレンジの妙味に驚かされる圧巻の内容だ。しかも、どれもリード曲になり得るフックの効いたメロディーを持っている。プライマル・スクリーム“Country Girl”をお手本にしたような、オカモトショウ(ヴォーカル)作の“Sing A Song Together”、ハマが初めて作詞し(作曲はコウキ)、エッジーな演奏がスリリングに響く“Are You Happy?”、幻想的な展開も心地良い、コウキがリード・ヴォーカルを取る“夢DUB”、レイジのペンによる好ミディアム“誰”——メンバーそれぞれが代わる代わる主役になるという、ストーリー仕立てとも思える展開だ。また、Base Ball Bearの小出祐介と共作した“青い天国”、いしわたり淳治の手を借りて歌詞を完成させたという“マジメになったら涙が出るぜ”、甲本ヒロトがブルース・ハープとコーラスで参加した“共犯者”といった先行シングル曲、さらにスカパラのメンバーを迎えて一発録りした“Give&Take”と、先輩ミュージシャンとの気の置けない共演も、このバンドの開かれた感覚をしっかりと後押ししている。
〈愛〉なんだ
「僕は20歳で世界の頂点に達するつもりでこのバンドをやっていたんですけど、実際は22歳になってもまだ……というジレンマがある。じゃあどうすればいいのかな?って考えた時に、まずはとにかくたくさん曲を書こうってことになったんです。しかも、〈俺たちの歌〉っていうか、みんなでいっしょに歌えて共有できる歌をちゃんと作ろうって。1日1曲作るのが目標。もう、千本ノックですよ(笑)。でも、バンドのみんなも同じ気持ちだったんです」(ショウ)。
「僕自身は〈音楽好き〉から〈音楽家〉へスウィッチするタイミングで、途中少し迷ってしまったりもしましたけど、それだけに〈曲を作った!〉って実感はすごくあるんですよね」(コウキ)。
「“Sing A Song Together”は結局、最初にショウが録ってきたデモの歌がいちばんいいってことで、それをそのまま採用しています。歌詞も若干意味不明でメチャクチャでしょ(笑)? でも、これがすごく伝わってくる。ああ、これなんだなって思いましたね」(レイジ)。
ライヴをやるように、冒頭からほぼアルバムの収録順通りにレコーディングしたことも、作品にホットな息吹を与えられたと口を揃える4人。実際、ローリング・ストーンズ〈悪魔を憐れむ歌〉にも似たラスト曲“Shine Your Light”はいちばん最後に録音をしたそうで、ひとつのアルバムを間もなく作り終えるんだ、というエネルギーが後半に向かってヒートアップしているのがわかる。
「ここまで開かれたアルバムが出来たきっかけのひとつとして、今年の夏、大阪城でのイヴェントで僕らがハコバンをやったんですけど、そこで奥田民生さんやCharaさん、山中さわおさん、ムッシュかまやつさん、吉井和哉さんとか、とにかく多くの方々と共演できたのはすごく大きかった。誰かといっしょにやることで自分たちの本質が見えてくるんですよね」(ショウ)。
「こんなことをやれる同世代のバンドって俺たちくらいだよなって自信になりましたね。だったら、ちゃんと歴史に名を残すような作品も作らないといけないなって」(コウキ)。
そんな今作のテーマは、ズバリ〈愛〉だと照れ臭そうに4人は話す。最初はショウがメンバーに提案したそうだが、実は全員同じようなことを考えていたという。
「愛というか、人と人との距離感ですよね。繋がりみたいなものを漠然と考えていたんです。ヴァーチャルじゃない、ちゃんとした繋がりが〈愛〉という言葉に置き換えられたのかな、とかね」(レイジ)。
「愛って、こっ恥ずかしい言葉ですよね。でも、男4人のバンドでいま誰もそんなことをストレートに作品にしてないって思って。だったらやっちゃおうよ、と。単に〈愛してるわー〉って感じではなくて、ちゃんと自分たちの言葉と音で伝えていく作業こそが愛なんだろうって。で、この新作がちゃんと伝われば、お湯のなかで溶け切ってなかった前の3作品も、徐々に溶けていくはずだと、いまは思います」(ハマ)。
▼先行シングルを紹介。
左から、『マジメになったら涙が出るぜ/青い天国』『ラブソング/共犯者』(共にARIOLA JAPAN)
▼新作に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ザ・クロマニヨンズの2012年作『ACE ROCKER』(ARIOLA JAPAN)、東京スカパラダイスオーケストラの2012年作『欲望』(cutting edge)
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年01月09日 17:59
更新: 2013年01月09日 17:59
ソース: bounce 351号(2012年12月25日発行)
インタヴュー・文/岡村詩野