HOTEL MEXICO 『HER DECORATED POST LOVE』
[ interview ]
HOTEL MEXICOは自由なバンドだ。彼らは決して演奏家としては上手くない。セッションで曲を作るタイプではないが、だからといって宅録の技術を研究し尽くしているわけでもない。レコーディングも立派なスタジオをほとんど使わず、メンバー6人中4人が共同で暮らす京都の町中の一軒家の土間でほとんどを録音しているという。自由……というより、やれる範囲でやっている、それ以上を極端には望んでいないバンドだと言ったほうがいいだろう。
だが、そういう環境で作られているのにもかかわらず、HOTEL MEXICOの作品は特有のスマートなポップ感に彩られている。わけても、昨年のUSツアー前後に作ったという新作『HER DECORATED POST LOVE』は、チルウェイヴ、ローファイ・ポップ、シンセ・ポップなど欧米のシーンとシンクロしたようなこれまでの作品とは少々異なり、ある種大人びたAORタッチの曲が揃っているのが特徴だ。ソングライティングの基本に縛られることなく、既成の音作りの方法論に委ねず、地元から離れることもなく、ハンドメイド/DIY指向を貫きながらも、決して異形化することなく、あくまでポップなものであろうとする気高さ。そして、欧米のインディー・シーンで高い評価を得ながらも、次のステージに進もうとする彼らの思惑とはどこにあるのか。彼らが拠点とする京都の、所属するレーベルであるSECOND ROYALのショップにおいて、メンバーのなかから、石神龍遊(ヴォーカル/シンセサイザー)、岩本真明(ドラムス)、菊池史(ギター/シンセサイザー)、小林慈幸(ギター/シンセサイザー)の4人に集まってもらい話を聞いた。
ロマンティックな感じ
――昨年夏にUSツアーを行なっていますね。ツアー中に曲を作ったりもしていたのですか?
石神「いや、ツアー中に曲は書いていないですね。ライヴをやっていろいろ勉強になりましたけど……」
岩本「対バンしたバンドのドラマーがライヴ前に筋トレしていたのはショックだったり(笑)」
小林「僕はビデオ・カメラを盗まれました(笑)」
石神「もちろん、帰国後には曲を書いてるんですけど、直接的に影響されて……ということはなかったですね。やっぱりライヴと曲作りは別なので。今回のアルバムのきっかけとなったのは、最初に“A Palm House in the Sky”を2011年の夏くらいに作ったことです。そこから何となくスタートして、この曲から引っ張られて新しいアルバムに向かったって感じですね」
菊池「事前にメンバーみんなで次のアルバムをどうしようか?って話をした時に、〈ロマンティックな感じ〉というのをキーワードにしようってことになりました。確か、その“A Palm House in the Sky”が出来た後くらいのことで、この曲から〈ロマンティック〉ってイメージが出てきたんです」
小林「基本、曲は龍遊さんの気まぐれで出来るんですけど(笑)、この時、龍遊さん恋をしていて……(笑)」
石神「その話はやめようよ~(苦笑)。まあ、事実ではあるんですけど(笑)」
小林「まあ、ロマンティックでずっと長く聴けるようなものにしようってことになったんですよ」
岩本「まあ、僕ら本当に仲良くて、メンバー6人中4人がいっしょに暮らしていたりもしてるんで、自然と聴く音楽を共有したりするんですよね。そういうところから、アルバムの方向とかも自然と決まっていくんだと思います」
石神「それは大きいですね。曲を作る時って、それぞれ曲の基礎を持ち寄るんですけど、結局は同じ感覚を共有しているので自然とまとまっていくんですよね」
小林「誰かが最初のベーシックな音の断片を持ってきても、基本的には龍遊さんのフィルターを通して完成されていくんで、バランスよくなっていくんだと思いますね」
石神「まあ、とはいえ、最終的に自分が好きで聴いて影響を受けた音楽が素直に反映されることが多いんですけどね。やっぱりリスナーとしての感覚が軸になったりしています」
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