LONG REVIEW――HOTEL MEXICO 『HER DECORATED POST LOVE』
成長という名のポジティヴな重力
ワイルド・ナッシングやダイヴなど、NYのインディー・レーベル、キャプチャード・トラックス周辺のバンドに共通して感じられる不思議な音の軽さはいったい何なのだろう? ひとつ推測(妄想)できるのは、これは〈重力の消失〉を表しているのではないか、ということ。音楽に限らず、表現は時間を経るにつれて徐々に重くなっていくものが多い。しかし、近年の若いインディー・アクトは〈リヴァーブ〉という武器を得て、思想をぼやかしながらその重力に逆らってきた。
日本でいち早くそうした軽さにチャンネルを合わせていた京都出身のHOTEL MEXICOは、今回の新作でもそうした〈重力の消失〉を甘美に描き出している。それは、アリエル・ピンクが乱雑に散らかした異次元のゴミ屋敷を、その質感を残したまま几帳面に整頓し、居心地のいい無重力空間を構築したかのようだ。
しかし、ひとつ興味深いのは、かつてファルセットを多用していたヴォーカルが、ところどころでイアン・カーティスばりの低音ヴォイスを発するようになったことだ。ここで彼らは軽さのなかでこそ映える〈重さのあり方〉を発見したのかもしれない。それは例えば“Wilson”の中間部で音がふっと消える瞬間の不思議な余韻にも言えることだ。リヴァーブのかけっぱなしではなく、少しヒネリを加えることで起こる異化作用の利を効果的に引き出すこと。本質こそ変わっていないけれども、こうした細部の微妙な変化から、このバンドにも〈成長という意味でのポジティヴな重力〉が生まれてきているのが感じられる。
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