インタビュー

INTERVIEW(2)――日本から逃げたくない



日本から逃げたくない



BRAHMAN



――わかりました。では、いま言われた〈自分のなかにある引き出し〉を改めて訊きたいんですけれども。振り返って、バンドを始めたときに思い描いていた理想像ってどういうものでしたか?

「パンクとかハードコアとか、そういうガーッとしたサウンドがあって、メロディーがあって、その周りを包むような叙情溢れる民族的なフレーズがあれば、俺たちは完成形だと思ってるんで(笑)。それ以外ないですよ、基本的には」

――BRAHMANの初期からの独自性って、メロディーだけでなくリズムにもあると思うんですけれど、このアルバムで言えば、3拍子の曲が特に印象的で。たとえば“鼎の問“とかはいちばんストレートに歌が出てくる曲のひとつだと思うんです。

「自分の湿っぽいメロディーにはすごく合うんですよ。“露命”は6なんですけど、そういう拍子が合う気がする」

――今回のアルバムでは、〈自分たちの音楽を届ける〉ということに関して、すごく意識的になっていると思うんです。端的に言うと、歌詞が日本語になってますよね。で、そのリズムと言葉、メロディーとのアンサンブルがこれまで以上に強固になっていると思います。

「どの曲とかですか?」

――例えば“初期衝動”はまさにそういう感じがしました。サビで叫ばれる〈衝動〉を筆頭に、歌詞を読まなくても言葉が強く飛び込んでくる。楽曲の緩急のつけ方とか、ブレイクの入れ方とか、メロディーも、言葉を届けるところを目掛けて密接に作用しているというか。なので、その言葉も含めたアンサンブルが強い。

「うん、それは正しいと思いますね。これまで、もしかしたら言葉にこだわってるようで、本質的にこだわってなかったんじゃないかなって自分で思い返すこともあって。今回は、たとえばその〈衝動〉という言葉に辿り着くために、究極まで追い込んで、突き詰めてやったところがある。そこに辿り着くまでのフォームも崩したくなかったし、かといって言葉が何でもいいということはなかった。とにかく日本語じゃなきゃ自分のなかでダメだったし、伝わってこないなって思ったし。難解すぎてもダメだし、かといって安易に選んだものでもダメだし。いままでにないぐらい言葉と格闘したというか。悔いはないですね」

――ひたすら言葉を探していく作業があった。

「そう。本当に自分に響く言葉ですよね。その前までの自分だったら、もしかしたら難解でも見た目とか響きが良かったら選べたかもしれないけど、そうじゃなくなった。どっちも譲れなくなった。何度も書き直しましたね。辞書2周ぐらいしたんで(笑)。あとは、自分が歌わないパートも増えてるから。人の考えた恥ずかしい言葉なんて歌いたくないじゃないですか。だからそこにもプレッシャーがあったし」

――日本語の歌詞を書くにあたって、キツかったとか、苦労した感覚というのは、特にどういうところにありましたか?

「日本語のいなたいところとか、リズムに乗らないところとか、意味がわかりすぎてしまうところが邪魔になる可能性って、自分でもわかるんですよね。でも、やっぱりこうしなきゃ出せなかったんですよ。今回は」

――BRAHMANの音楽として、今回は日本語詞が必要だったと。

「それは結局、いま、日本から逃げたくねえなっていうことですね。すべてにおいて。音楽と人生と自分の生き様と重なってきているわけだから。自分がいま持ってるものから目を逸らしたくないっていう。そこで勝負するっていうか」



ぶっきらぼうに歌うために歌を習ってる



――なるほど。そういう言葉と1人1人の演奏は絶妙に噛み合っていますよね。何度も言いますが、トータルでのアンサンブルがほんとに素晴らしいなと思いました。

「わかります。絶妙なイビツさがありますよね(笑)」

――その絶妙なイビツさっていうのがこのバンドの魅力なのかもしれないし、失礼ですけど、そこはこの先も変わらないと思いました。

「まぁ形を変えて上手くできる人は形を変えればいいんだと思うし、それを別に批判するわけじゃないですけど……やっぱり自分なんかは、音楽を始めようと思った頃の、中学生に毛が生えたような年齢の時に持ってた、イビツな人格のなかにすごい大事なものがたくさん詰まってたんじゃないかなって思うことがあって。そういうふうに刺々しいところがあればいろんなところに引っ掛かるし、折られることもあるし、削られてだんだん丸くなることもあると思うんですけど。でも、自分は自分のままで、ありのままでいきたいから」

――なるほど。

「で、そのためにはテクニックもいるし、努力もしなきゃダメなんだなって、いまは思ってるんですよね。イビツさを崩さないために、ひたすら努力をする。ぶっきらぼうに歌うために歌を習ってるっていう。普通は上手くなりたいから習うでしょ(笑)? 違うんですよ。バーン!ってやりたい、その説得力を出すためにはよれちゃったら意味がないから習う。そういうことをしてるの、俺ぐらいじゃねえかなって思ったりしますけど(笑)」

――それはメンバーの皆さんがスタジオで必死に練習してるというのにも繋がる話ですよね。

「もうね、いまさら基礎練みたいなのをやり出してるメンバーとか見ると、胸がキュンとしますよ(笑)。ひとりでずっとトーン……トーン……とか、スネアを叩いてたりするんですよ。俺が来てるのに気付かなくて、ずっとやってて。もう何時間も前からやってるんだろうけど」


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掲載: 2013年02月13日 18:01

更新: 2013年02月13日 18:01

インタヴュー・文/柴 那典