LONG REVIEW――BRAHMAN 『超克』
気高く力強い、不撓不屈の闘志
〈晴れたね。ずっと雨の日が続かないように、ずっと続く苦しみもない。去年は苦しんだよな、東北。次は……楽しむ番だ〉。
2012年、BRAHMANとして初めて出演した〈ARABAKI ROCK FEST.〉で、TOSHI-LOWはそう語っていた。〈3.11〉以降、彼らは復興支援活動を立ち上げ(その一環で大船渡、宮古、石巻にライヴハウスも作った)、たびたび被災地に赴いて演奏し、ライヴではMCで観客に語りかけるようになった。それは彼らの意志や信念、衝動がまた新たな形で発露したものと解釈していたが、この5年ぶりのフル・アルバム『超克』も、まさにそのような変化の元に生み出された作品である。
オリジナル曲すべてが日本語詞という、アルバムとしては初めての体裁。ハイハットとバスドラがポリリズムを刻むイントロで始まり、己の表現に賭ける決意を歌う、冒頭の“初期衝動”からしていままでにないモードだ。現実を見据え、己の心を見つめ、いまという時代をどう生きるべきか――“霹靂”や“鼎の問い”で書かれたそれらの言葉や、〈また日は昇る〉と歌う“遠国”など、本作の詞には気高く力強い、不撓不屈の闘志が込められており、それゆえメッセージの伝わり方も非常にダイレクトになった。
また一方で、彼らは独自のリズム・アプローチを身上とするバンドでもある。鍛え上げられた鋼のごときバンド・サウンドは決して直線的なだけではなく、ビートのコンビネーションが生むエネルギーや爆発力が特長だが、本作はより緻密で多彩なリズムで構築されており、それは新録の“賽の河原”や“最終章”などに顕著だ。そしてメランコリックで叙情的なイントロから、ハードコア・パンクへ転じる“俤”は“ANSWER FOR...”(98年)に通じるし、近年の彼らには珍しいインド音楽の要素も濃い“虚空ヲ掴ム”など、かつての彼らを彷彿とさせる楽曲があったり、夭折したUSのシンガー・ソングライター、ジュディ・シルが71年に書いた名曲“Jesus Was A Cross Maker”のカヴァーも嬉しい驚きだ。
バンドの最新型であると同時に集大成とも言えそうな本作は、彼らにとってひとつの到達点であり、〈AIR JAM〉及びその周辺のバンドが次々と復活するシーンのランドマークにもなるだろう。掛け値なしに、素晴らしい作品だと思う。
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