INTERVIEW(2)――アルバムをより深いものにしたモスクワへの旅
アルバムをより深いものにしたモスクワへの旅
――ではアルバム収録曲からいくつか窺っていきたいと思うんですが、まずはその“P-O-P-T-R-A-I-N”から。この曲は、ラジオ番組用のジングルから発展させた曲ですよね?
「1年半前、TBSラジオ〈ザ・トップ5〉が始まるのでぜひジングルを、と頼んでもらって。最初にイメージしたのが〈ザ・ベストテン〉。どっちもTBSだし(笑)。ああいう大袈裟なストリングスが効いてるジングルというか番組のテーマ曲、それの現代版みたいなものを何とかシンセで作れないかっていうところから始まったんですけど、メンバーにも評判だったので別の曲にしようと思っていたAメロと大サビを合体させて作りました。歌詞については、僕らぐらいの世代……アラサー/アラフォーの人たちに自分なりのメッセージを伝えられればいいなあって思いで書いたもので、例えば〈夢は叶うよ〉っていう言葉ひとつにしても、何にも叶えてない人と叶えた人が言うのとでは説得力が違いますよね。僕の場合、のたうち回ってた時期もあったけど、プロになる、最高のバンドを組む、デビューする、大好きなジャクソンズと会えてハモったりできて、ジャニーズやアイドル・グループのプロデュースもできて、草野球でもエースになって(笑)――たくさんの夢を叶えてきたし、20代の時よりも表現力が増してると思うから、〈大丈夫だよ、自分が思ったことやろうぜ〉っていうメッセージを投げても説得力があるって思ってもらえるんじゃないかな」
――“Never Ever Let U Down”は唯一の英語詞で、熱いギター・ポップというか、メロウでありながら疾走感のある楽曲で。
「僕が書いたものでこういうギター・ポッピンな感じの曲はこれまでもあったんですけど、これは奥田の曲で、やっぱ独特です。最初のデモはもっとのんびりしていて、ゾンビーズみたいな60年代っぽいアレンジが施されていたんですけど、煮詰めていくうちにだんだんアッパーになっていって、僕はBUCK-TICKの“悪の華”みたいだってずっと言ってたんですけど(笑)、当の奥田はBUCK-TICKを知らないっていう。僕はこの前も夏フェスでメンバーにご挨拶して震えたくらいのBUCK-TICKフォロワーなんですけどね(笑)。歌詞には他愛のない、それこそ〈I want it, I need it, I love it.〉とか常套句をふんだんに盛り込みながら、日本人がやるアッパーな曲の教科書みたいなもの、Hi-STANDARDとかBEAT CRUSADERS、PENPALSが表現してきたような英語詞ならではのノリを表現してみました。これを3曲目に持ってこようって言ったのはプロデューサーの冨田(謙)さんなんですけど、この曲がここにあることで成熟したバンドっていうイメージだけじゃなく、一周して新しいところをめざしてるいまのノーナの感じが出るんじゃないかって」
――“GOLDEN CITY”では、レーベルメイトでもある一十三十一さんとデュエットされてますね。
「僕ら世代が男女でカラオケに行くと“ロンリーチャップリン”とか歌っちゃうわけですけど、ニーズに比べて新しいデュエット・ソングが少ないなと思うことがあって。ジャーメイン(・ジャクソン)とホイットニー(・ヒューストン)みたいな、ちゃんとしたラヴ・デュエットみたいなものがあってもいいんじゃないかなっていうひとつの提示ですね。これは、歌詞を全部書き上げる前にタイトルが先に決まったんですよ。煌めいてる曲だなあって。ビルの階上から眺める街の灯りって、同じ光の粒でも一個一個に営みがあるわけじゃないですか。光のぶんだけストーリーがあると思うし、それをトータルでみると星空のように見える。歌詞を書いて、第1稿を一十三十一ちゃんにも送って……そのあと僕は、〈シルク・ドゥ・ソレイユ〉を観るためにモスクワに行ったんですけど、モスクワの街がね、ものすごくゴールデンなシティーだったんですよ(笑)。いわば1000年以上前からある街で、僕は京都で育ったんですけど、長い歴史のある街独特の温かさを感じたんですね。モスクワっていうと、〈ロッキー4〉の世代だからドラゴ(ドルフ・ラングレン)みたいな奴が住んでるとか、軍需産業のスパイみたいなのがいっぱいて油断したら頭にチップ埋め込まれるとか(笑)、米ソ冷戦時代の偏った刷り込みがあったんだけど、実際に街を歩いてる女の子たちは半分以上シャラポワみたいでめっちゃ綺麗(笑)、ロシア正教の金の冠を被ったような建築の教会だらけで街も美しいっていうのを目の当たりにした時に、〈GOLDEN CITY〉っていうタイトルのイメージがさらに膨らんだんです。モスクワって、東京以上に歴史に翻弄された街じゃないですか。帝政から革命もあり、レーニン、スターリンで民主化もありみたいな。でも結局、街はいろんな人が生まれたり死んだりしながら形成されて元気に脈々と続いていく。それを改めて感じたんですよね。僕ら自体は街における血液みたいなもので、街そのものがいちばん偉い。樹齢1000年の大木と同じで、人が恋したり傷ついたり夢が叶ったり成功したり失敗したり、そういうものすべてがエピソードとして街のなかに含まれてる。で、この曲はモスクワから帰ってから歌録りするっていうことだったので、歌詞の一部分を書き直したんです。制作は後ろに延びちゃったんだけど、あそこでモスクワにたまたま行けたのもこのアルバムを深めたというか。〈POP STATION〉という、人が出入りするひとつのネットワーク拠点としての街や駅といったものの強みっていうか、そこが歌や歌詞にも表現できたかなって。この曲は最後に出来上がったんですけど、アルバムの最大のテーマを織り込めた曲になりました」