INTERVIEW(3)――僕らよりもっと好きになってくれる人がいるんじゃないか
僕らよりもっと好きになってくれる人がいるんじゃないか
――“マンドリン・ガール”“三年”といったところは、ギターと声、言葉をシンプルに聴かせるバラードで、アルバムのニュアンスに広がりを持たせている楽曲ですね。
「弾き語りのライヴを一昨年ぐらいから始めたんですね。震災後に仙台のタワーレコードから熱烈なアプローチがあって呼ばれたのがきっかけだったんですが。それまでDJで地方に行くことはあったんですけど、ちょっと飽きてたところもあったので、じゃあ弾き語り久々にやるかって。そんなにギターは巧くないし、ギターを流暢に弾きながら歌う人のすごさっていうのは和田唱とか堂島孝平とか身近なアーティストを見てわかってたから、ノーナの曲をひとりでやってどうなるんだろう?って思ってたんですけど、ことのほか好評で。〈それはそれで良い〉みたいな。で、自分の曲で、日本語で弾き語りできる曲がもっとあったほうがいいかなあ……というのがきっかけで作ったのが“マンドリン・ガール”とこの“三年”だったんですよ。良い意味でほころびもあって、結果的に自分らしさっていうのが出た、本当に良い曲が書けたなあって思います。“三年”はノーナを知らない人がラジオとかで聴いて、歌詞が良いからって買ってくれたりするんじゃないかって思うこともあるんですよ。素っ気ないんだけど、ファンじゃない人にも届く意外な突破口だったりするんじゃないかなって」
――その流れで言うと、今回は作詞家としての西寺郷太が際立っているなと感じました。それこそ、V6などの近年手掛けた提供曲でも窺えていたところなんですが。
「作詞家になったなあって思いますね、特にこの4年で。その昔、クインシー・ジョーンズがロッド・テンパートンのことを作詞家としてすごく褒めてて。ロッド・テンパートンはマイケル・ジャクソンの“Rock with You”“Thriller”“The Lady in My Life”とかを作った人で、作曲家としても素晴らしいんですけど、彼の作詞の何がいいかって、クインシーいわく〈メロディーを抱くよう書く〉って言うんですよ。僕はその言葉が昔から好きで、自分でもすごくメロディーを抱くように歌詞を書いてきたつもりなんですけど、日本語でメロディーを抱くように書きすぎると伝わらないんですよね。メロディーから外れてるぐらい、メロディーを無視したぐらいの歌詞のほうが逆に飛び込んでくる、みたいなものが珍重されてる時代、やっぱり90年代以降はメソッドを無視して攻撃するほうが刺激的に感じられるみたいだったから、作詞家としての僕の出番はないなってちょっと思ってたんです。でもV6の“Sexy.Honey.Bunny!”あたりから、〈抱きながら攻撃する〉っていう書き方ができるようになって、結局、楽曲提供も8:2ぐらいの割合で作詞家仕事のほうが増えちゃって。わかんないもんです。今回、アルバムを全部録り終わってから冨田(謙)さんに〈郷太、今回作詞がヤバいよね〉って言ってもらえたので良かったなって」
――ラストの“休もう、ONCE MORE”では、メンバー全員がリード・ヴォーカルを。
「“デニーズガール”(2003年作『SWEET REACTION』収録)っていう曲も3人で歌ってたりしますけど、こういう形で3人がリード・ヴォーカルを取るのは初めてですね。意外と2人とも歌心があるし、本職の人がやらないことによって伝わる良さっていうのもある。この曲のアレンジは、ホント冨田さんにがんばってもらったというか、どういう方向にも持っていけた曲なんだけど、ちゃんとメジャーでも通用する音でノーナ感もあるっていういちばん良い落としどころに着けてもらえたなあって。あと、今回はこの曲に限らず、イントロにすごくこだわりたいっていうことを冨田さんに伝えましたね。80sでいうとマイケルの“Bad”やシンディ・ローパーの“Girls Just Want To Have Fun”のような、鳴った瞬間のインパクトが好きなんですよ。この曲のイントロ(空港の離陸音)からジワジワと高まっていく感じは、マイケルの“Liberian Girl”を冨田さんに聴いてもらって、ああいうリゾート感みたいなのが欲しいって注文をしました。結果的にそういうこだわりが〈POP STATION〉っていう言葉のポップ感をより引き立てたかなって思いますね」
――アルバムを録り終えてみて、ご自身の感想はいかがですか?
「今回が12枚目のオリジナル・アルバムになるんですけど、いままでは新しいアルバムが出来上がると、この作品をいちばん理解してるのは自分じゃないかなって、あまり良いことじゃないんですけど、どこかで思ってたというか。でも今回の『POP STATION』は、僕たちよりも好きになる人がいるんじゃないかなって思うんですよね、良い意味で。僕がこのアルバムをそんなに好きじゃないっていう意味じゃなく、ちゃんと自分たちとアルバムの間に一線引かれてるっていうか、いままでもこう思いたかったけど、自分たちがいちばん理解してるっていう気持ちにならざるを得ない世の中の状況だったり事情があったというか。今回はレーベルのBillboardや冨田さんの力も借りつつだけど、僕らがようやくホントにプロとして完成したんじゃないかって気がするアルバムですね。ポップ・ミュージックって本当に難しいんですよ。それはマイケルの本を書いたり、ライナーノーツを書いたり、ラジオでいろんなアーティストを取り上げたりっていう、他者に対してと同じように自分の作品に対してもクールになろうっていう意識が働いた結果でもあるし……うん、大好きなアルバムなんですけど、僕らよりもっと好きになってくれる、もっと語ってくれる人がいるんじゃないかなって、そんな気がするアルバムですね。3人の音楽人生に何ひとつ無駄がない感じで。だから嬉しいです」