ジャンク フジヤマ
一流のプレイヤー陣のど真ん中でパワフルな歌を轟かせる男が、情熱と人間味に溢れる〈ハイブリッドなシティー・サウンド〉を携えて、いよいよ臨戦態勢に突入!
いつでも臨戦態勢
昨年6月のメジャー・デビュー以降、“あの空の向こうがわへ”『PROUD/EGAO』“シェダル”と、極上のシティー・ポップ・ナンバーを詰め込んだシングルを立て続けに発表してきたジャンク フジヤマ。楽器同士が複雑に絡み合うことで生まれるダイナミックなグルーヴを基盤に、上質なポップスを同世代の若いリスナーにも伝えようと活動を続ける彼だが、このたび届いた待望のニュー・アルバム『JUNK SCAPE』は、地道に歩みを進めてきた彼を陽の当たる場所へと導く一枚となるだろう。本作の素晴らしさに興奮気味の筆者を見ながら、「ハンパない重量感でしょう」と彼は笑う。
「まず参加人数がハンパじゃないですからね。バックのメンバーに重鎮が多いので、その重厚感は出ていると思いますね」。
重厚感があって、ただならぬ貫録を感じさせる本作は、彼の〈グレイテスト・ヒッツ〉的な趣を湛えていて、リスナーは今作を通じてジャンク フジヤマという山の全体像をはっきりと捉えることができるだろう。シングルから連作となっているジャケット・デザインは、大滝詠一の名作『A LONG VACATION』を手掛けたイラストレーター・永井博が担当。そこに描かれた、眺めているだけで日焼けしそうな夏景色に映えるアーバンなポップスが満載だ。
「ジャンルレスな歌を聴かせたい、ってことが今回のいちばんのこだわりでしたね。いろんな選択肢があって、僕がやれるのはAORだけじゃないよ、ってところを見せたくて。ファンク、ジャズ、フォークなど良いものなら何でもやるというスタンス。そうやって作った音楽で何を見せるか、どれぐらい聴き手の想像力を掻き立てることができるか。それを追求することが、音楽をやる醍醐味ですから」。
本作の音楽性を説明するとしたら、ジャケットに記されているキャッチコピー〈HYBRID C-I-T-Y SOUND〉を使うのがもっとも的確だと思う。切れ味の鋭いブラス・サウンドが飛び掛かってくるファンク・チューン“誘惑”や、牧歌的でフォーキーなナンバー“ありふれた午後”といった曲がゴージャスなポップソングに混じって登場するのだが、アルバムのアクセントとして良い味を出しており、カラフルな色合いを強めることに寄与している。それにしても、こんなに強烈な存在感を主張する楽曲が集まったアルバムは珍しい。実際に耳触りの良い曲揃いで流れもスムースなのだが、全体の印象は、なんだかゴツゴツした感じがする。
「そう、いろんなものが集まって出来た、砦みたいなアルバムですよね。とにかく臨戦態勢にあるって感じがする。いろんな武器を集めて、〈どこからでもかかってこい!〉って言ってるような状態(笑)」。
どこまでも力強い音楽
一曲一曲が強烈なパワーを放っている要因には、やっぱりレコーディングへの参加者たちによるごっついプレイも関係している。ジャンク フジヤマというミュージシャンを表舞台へと引っ張り上げた張本人である村上“ポンタ”秀一(ドラムス)をはじめ、大滝詠一や寺尾聰との仕事で知られる井上鑑(ピアノ)、スピッツやユニコーンを手掛けてきた笹路正徳(キーボード)、井上陽水など大御所らをサポートし続ける今剛(ギター)といった、日本のポピュラー音楽界の一流どころがわんさかと集合。文字通りスペシャルなサウンドを提供していて、クレジットを眺めながら曲を聴くのが楽しくてしょうがない。そんなツワモノたちに囲まれ、人並み外れてデカい歌声を轟かせるジャンク フジヤマがまったくもって眩い。
「シンガー・ソングライターとして活動してますけど、今回は完全にシンガーの部分にこだわり、音楽における歌の重要性について強く訴えたかったんです。人をもっとも感動させられるものとは人間の内から出てきたもの、つまり歌声だと思うんですよね。演奏の素晴らしさって楽器をやっている人とか耳の肥えたリスナーにしかなかなか伝わらなかったりすることも多いけど、歌は誰にでもド直球で届けることができるんじゃないかと。それと、シンガー・ソングライターって〈個の世界〉を描くわけですから、とかく色が固定されがちになるように思うんですけど、僕は自分で曲を書きつつ、人の手も借りるというスタンスでやっている。すべて自分で書くべきだって風潮もあるけど、そんなの何とも思わない。世の中は俺ひとりで回っているわけじゃないんだから、それはおかしいんじゃないかと。このアルバムは、まさにそういう主張の作品になっていますよね(笑)」。
主にバンド・メンバーから提供された楽曲の世界を、みずからの解釈を駆使してどこまで広げてみせるか。その姿勢は、古典落語にどう自分らしい色付けをするか腐心する噺家にも通じるように思うが、何にせよ、このようなスタンスが間口の広い音楽性を生み出していることは間違いない。かつ、ひとつ特徴として言えるのは、本作にはめっぽう男臭い音楽が揃っているということ。“Lonely Days”のような男泣きを誘うバラードを聴くと、間違いなくアーバンな雰囲気なんだけど、スタイリッシュと呼ぶにはちょっと……なんて気になったりもして。
「(笑)。スタイリッシュなものにはそれほど興味がなくて、僕がやりたいのはどこまでも力強い音楽。バラードであってもエネルギッシュにやる。厚ぼったいものがいいじゃないですか。男臭いミュージシャンに憧れて活動を始めていたりもするんで、作るものがどうしてもそういう方向になっちゃいますよね」。
彼のキャリアにおいて、記念碑と呼ぶに相応しい作品となった『JUNK SCAPE』。「最初は竹槍で突っ込んでいってたのに、いまじゃ手持ちの武器も進化したし、今日はどれを使おうか?って考えられるほどに選択肢も増えた」と話す彼だが、現在はこのアルバムを携えていろんな壁を突破していかなければ、という心境だという。その気迫は、まるで戦に臨む戦国武将のようで頼もしい限りだ。
「ちょっと失礼します……なんてコソコソした感じじゃなく、〈行くぞ、オラ〜!〉って檄を飛ばしているような気分ですよ。なんせこちらには、七本槍(豊臣秀吉と柴田勝家との賤ヶ岳の戦いにおいて、秀吉方で功名を上げた7人の兵のこと)のような百戦錬磨の面々が揃ってますから(笑)。ただ、僕は大将として真ん中で軍配を振るっているんじゃなく、先頭に立って突っ込んでいくヨーロッパ・スタイルですね(笑)。これまでいろんな人と会ってきて、〈あんたみたいな人はいない〉って言われ続けているんでね。それを鵜呑みにして(笑)、ただただ突き進むのみですね」。
▼ジャンク フジヤマのシングルを紹介。
左から、2012年の“あの空の向こうがわへ”『PROUD/EGAO』、2013年の“シェダル”(すべてビクター)
▼文中に登場するアーティストの作品を紹介。
左から、村上“ポンタ”秀一の2012年の企画アルバム『Rhythm Monster』(ユニバーサル)、井上鑑が手掛けた2013年のサントラ『泣くな、はらちゃん』(バップ)、坂本竜太らが所属するSPICY KICKIN'の2011年作『TRANSIT』(SPICY KICKIN')、斉藤ノヴの2008年作『Zen』(ビクター)、今剛の2009年作『2nd ALBUM』(avex io)
▼ジャンク フジヤマの作品を紹介。
左から、2010年のライヴ盤『JUNKTIME』、オリジナル曲とライヴ音源をまとめた2010年の企画盤『JUNKSPICE』、2011年作『JUNKWAVE』、ボーナス・トラックを追加し、リマスター版としてリイシューされた2009年のミニ・アルバム『A color+5』(すべてMil)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年03月19日 15:20
更新: 2013年03月19日 15:20
ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)
インタヴュー・文/桑原シロー