インタビュー

m-flo 『NEVEN』

 

第7の階層に浮かぶのは涅槃かヘヴンか——原点回帰を果たした前作での復活から1年、2人から早くも新たなサウンドの招待状が届いた。音楽の別天地はここにある!

 

 

〈原点回帰〉の精神で維新の扉を叩いた5年ぶりのアルバム『SQUARE ONE』からちょうど1年、m-floの新作『NEVEN』が届けられた。今回も〈音楽を純粋に楽しむ〉という意図のもと、ゲスト・ヴォーカリストに関する情報が遮断されていたりはするが、プロットの展開も含め、VERBALと☆Taku Takahashiのなかで何かが動きはじめているようだ。VERBALに訊いてみた。

 

ゲスト名を伏せるのは良くない!?

──今回はどんなアルバムをめざしたんですか?

「『NEVEN』というタイトルは、7枚目だからSEVENと、あとは〈HEAVEN〉と〈NEVERLAND〉をかけた造語なんです。コンセプトはウチらが理想と思う場所に向かう旅。その理想というのは〈もっとワールドワイドな感覚で認められたい〉とか〈もっと新しいステージに立ちたい〉とか、そういうことだと思うんですけど、それを探すべく、こういうアルバムを作ったっていう感じですね」

──インタールードで展開するSF的な物語は、前作に続き、佐藤大と武田無我の両氏が脚本を担当されてますね。

「そう。さらに今回は『銀河鉄道999』のメーテルの声優さんが加わってくれたから、どこかに向かう旅というイメージを増幅させてくれるんじゃないかな」

──前作のプロットでは、グローバルアストロライナー社が破産、プラネットシャイニング計画も白紙、という展開でしたが、本作では、実はプラネットシャイニング計画は継続中だった、と方向が転換しました。

「そこは☆Takuがポジティヴに変わってきてるのが見え隠れする部分で(笑)。前作は〈どうしよう? どうしよう?〉って言いながら作ってたんですけけど、一回それを出したことでだんだん見えてきた部分があるし、今回はヴァラエティーに富んだ感じのアルバムにしていこうって言ってたんです」

──確かに今回のサウンドは多彩だし、前作よりキャッチーになった印象があります。

「前作を作ったときは、2人とも久しぶりにm-floっていう帽子をかぶってそのモードに入ろうとしてたと思うんですけど、そこに至るまでに各々が活動してたところが偏ってて。僕は超ファッション系の主に外国の方と仕事をしてて、☆TakuはずっとクラブでDJしてて、戻ってきたときはおのずとバキバキな音になってしまうというか、それが気持ちいいから音にも反映されたと思うんです。けど〈え!? これ、私たちの知ってるm-floじゃない〉みたいな声があって。あと〈ゲストの名前も言わないし〉とか。ウチらとしては進化していく過程をアピールするためにやったんだけど、ちょっと置いてけぼりにしちゃってるところもあったのかなと。じゃあ、次は本来ウチらが持ってたヴァラエティーを出そうって。それでバラードの“LOVER”を作ったり、メロウな“Das Dance(Like That)”を作ったり、久しぶりに2ステップもやってみようかって“JOURNEY X”を作ったり、いろいろ遊んでみたんです。☆Takuも2曲で歌ってたりするし」

──〈ヴォーカリストに関する質問には答えません〉という制約を今回も設けたのは、前回で手応えを感じたから?

「本来はネーム・バリュー抜きで聴いてもらいたいっていうのが大きかったんです。だけど、前作を出したとき、YouTubeのコメント欄とかに〈どうせ2NE1なんでしょ〉〈なんで名前隠すの?〉〈m-floひどい〉っていう人まで出てきて(苦笑)。考えたら、みんな知りたいから名前をバラしちゃうんだろうなって。だから、このヴォーカリストの名前を伏せるっていうアイデアは良くないんじゃないかなと実は思ってます。アルバム2枚目にして崩れつつある(笑)」

 

リスナーのマインドをリセットしたい

──今回はもう完全にバレてるゲストが何人かいますからね(笑)。

「そう(笑)」

──そのなかでも最近スポーツ新聞などで参加が発表された“NO WAY”のヴォーカリストは、声にすごく味がありますよね。キラキラしてるんだけど、色気もあって、歌も上手いし、ラップにも雰囲気がある。

「そう、イイ声をしてるんですよ。もともと友達で、カラオケとかで歌ってるのを見て〈歌うまいじゃん、やろうよ!〉って誘って。最初は恥ずかしがってあんまり歌えてなかったんだけど、1時間くらいで思いっきし歌えるようになって」

──“NO WAY”はどんなふうに制作していったんですか?

「最初は4つ打ちっぽいキラキラしてる曲もアリかもとか言ってたんですけど、☆Takuが、〈2人で歌うんだったらあえてヒップホップな感じに挑戦したら映えるんじゃないかな?〉って言って、このトラックになったんです。彼女を見てると他のモデルさんにはないインディペンデンスを感じるんですよ。どんどん前に突進していく感じがするし、上に上にと右肩上がりでしか行かないっていう感じがする。だから〈No way I'm going back〉って。〈もう戻らない!〉みたいな歌詞を書いたんです」

──今回のリード曲“LOVER”は久々のバラードでした。そこにはどんな思いがあったんですか?

「昔、“let go”(m-flo loves YOSHIKA名義で発表した2004年のシングル)を作ったときといっしょで。“let go”って、〈loves〉を始めて〈うわー、楽しいねー〉って『ASTROMANTIC』を作った直後に作ったんですよ。一回、LISAがいたときのバラードとか落ち着いた感じのものが欲しいよねって作った。そのときと気分が似てるのかなって。『SQUARE ONE』はガシガシしていてブレイクがない感じだったんで、なんかバラードを作りたいムードだったんですよね」

──最後に、6月から始まる全国ツアーはどんなものになりそうですか?

「いま、m-floは〈ヴォーカリストがいないといけないライヴ〉を脱しようと思っていて。自分たちで蒔いた種だからこんなことを言うのはナンなんですけど、ライヴをやるといつも〈えー、なんで? あの人来ると思ったのにぃー〉っていう。それは確かにウチらのライヴに来る醍醐味ではあると思うんですけど、ゲストをメインにされて来られてもちょっと違うし、っていうところがあって」

──じゃあ、今回は参加ヴォーカリストが出演しないかも!?

「出てもらえたら出てもらいたいですけど、ヴォーカリストがいなかったらどうなるのか?っていうのも試してみたくて。ツアーと並行してクラブでもライヴをやろうと思ってるので、ストイックに実験的なこともやろうと思ってるんです。デヴィッド・ゲッタがクラブでやろうが、幕張メッセでやろうが、誰も出てこなくてもデヴィッド・ゲッタのライヴじゃないですか。デヴィッド・ゲッタがブラック・アイド・ピーズに書いた“I Gotta Feeling”をプレイしたら、BEPがいなくても盛り上がる。もしそこにBEPが現れたら〈マジで!? やった!〉になる。そういうマインドにみんなをリセットしたいんですよね」

 

▼VERBALが客演した近作を紹介。

左から、マット・キャブの2012年作『Love Stories』(STAR BASE)、D-LITEの2013年作『D'scover』(YGEX)、ヒャダインの2012年作『20112012』(Lantis)、ROCKETMANの2012年作『恋ロマンティック!!』(ビクター)

 

▼☆Takuがプロデュース/リミックスに参加した近作を紹介。

左から、加藤ミリヤの2012年作『TRUE LOVERS』(ソニー)、MINMIの2010年作『Mother』(ユニバーサル)、TVドラマのサントラ『ビブリア古書堂の事件手帖』(rhythm zone)、パッション・ピットの2012年作『Gossamer』(Columbia/ソニー)

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掲載: 2013年03月20日 18:01

更新: 2013年03月20日 18:01

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

インタヴュー・文/猪又 孝