INTERVIEW(3)——新たな制作方法は2人にとっての音楽療法!?
新たな制作方法は2人にとっての音楽療法!?
――曲作りのフリースタイルなセッションは2人だけの時もあれば、ドラマーの菅沼雄太さんが加わる時もあったそうですね。
森「そう。今回は菅ちゃんと3人でスタジオに入って出来た曲もありますね。彼はドラマーやけど、僕といっしょで違う楽器が弾けたり、感覚が鋭いから、いっしょに音を出す時に安心できるんですよ」
中納「菅沼くんとは付き合いが長いから、私と森くん2人の作業が時にフリーズすることもわかっているんですよ(笑)。だから、そういう時には間に入ってくれて、お互いの意図を通訳しながらフリーズしている部分を柔らかく解きほぐしてくれたり、音にも表れている彼の繊細さが私たちにとっては音楽療法みたいに作用することもありましたね」
――そして、7曲目の“女根の月”では、2006年のアルバム『ON THE ROCKS!』でアートワークを手掛けた大竹伸朗さんが作詞を担当されていますよね。
中納「そうですね。私たちは歌詞先行で曲を書いたことがなかったので、今回、挑戦してみたいなと思ったんですけど、歌詞先行であるなら、誰かに書いてもらったらおもしろいものになるんじゃないかなって。そう考えていた時に『ON THE ROCKS!』でアートワークを手掛けた大竹伸朗さんが、当時、〈歌詞を書いてみたいんだよね〉っておっしゃってたことを思い出して。大竹さんとはここ最近、共通の知人を介して交流があって、宇和島へ遊びに行ったり、いっしょにカラオケをやったりしてたんですけど(笑)、たまたま、電話がかかってきた時、〈大竹さん、歌詞書いてください〉ってお願いしたら、〈ちょっと興味あるねー〉って話になったんですよ。それで〈テーマがあるじゃん? 海とか山とか宇宙とか、男と女とかさ〉って訊かれたので、〈じゃあ、男と女でいきましょう〉ってことになったんです」
――そして、大竹さんから上がってきた歌詞に音楽を付ける作業はいかがでした?
森「Aメロ、Bメロ、サビっていうような、典型的なポップスの構造を考えていたんですけど、大竹さんの歌詞はセクションごとに言葉の量が違うので、そうなると曲に上手くハマらないんですよね。だから、前半部分はポエトリー・リーディングにしたり、歌詞のなかでサビの箇所を決めたりしながら曲を付けていったんです。なかでも、〈銀河系ブルージャングル〉って言葉、その〈ブルージャングル〉っていうのはジャズを連想させるものだったり、想像を喚起されるものがあったので、ヴィブラフォンを使ったり、ASA-CHANGにドラムをお願いしながら、イメージを音に置き換えていく作業は楽しかったですね」
中納「決して楽な作業ではなかったですけど、苦戦はしなかったですし、むしろ、言葉に酔わされて、うっとりしましたね」
——片や、3曲目の“AQ ビート”や8曲目の“ちりと灰”は激しく振り切れたギター・プレイから伝わってくるロック感覚に森さんらしさが強く感じられますよね。
森「アルバムの他の曲でドラムやベースをきっかけに曲を作ったことで、〈よし、ギターでやろうか〉って思って。そうやって生まれた曲なんですよね」
中納「〈やっぱり、ギター好きー!〉みたいなね(笑)。それがおもしろいですよね」
――今回のアルバムにおける多彩な楽曲は、2人がその時に聴いていた音楽に触発された部分もあったんでしょうか?
森「例えば、『ないものねだりのデッドヒート』にはクリス・カトラーのようなレコメンデッド系アーティストに触発された曲が入っていたり、僕らの音楽制作はその時々に聴いてる、自分たちにとっての旬な音楽が反映されたりもするんです。ただ、今回は聴いている音楽と自分たちが作っている音楽がまったく別だったというか、聴いている音楽を音楽制作に持ち込まないようにしようと思ったんですね。いまはそのほうがおもしろい音楽が出来るという確信があったんですよ」
――むしろ、今回はいままでとは違う角度から自分の内面を探求することで、新しい表現を模索したということなんですね。そして、新しい表現といえば、今回のアートワークでは中納さんが書かれたイラストを使われていますよね。
中納「絵は4年くらい前に描きはじめたんです。何も考えずに、〈これは何に見えるんかな?〉って、自分でもおもしろがりながら筆を進めていくので、頭が柔らかくなるというか。これまで〈何かしなきゃ〉っていう気持ちに突き動かされて音楽をやってきたんですけど、それとは別のことを時間かけてゆっくりやるのは、自分にとって新鮮なことだし、気持ちが休まるんですよね」
――楽器を絵筆代わりに取っ替え引っ替えしながら作り上げた今回のアルバムに、自由に絵筆を走らせた中納さんのイラストが付けられているのは、いまのEGO-WRAPPIN'を象徴しているように思いました。
森「今回は結果的にいろんなタイプの曲が出来たので、みんな、どこに引っ掛かるのかというのが楽しみでもあって。だから、聴く人それぞれが好きな曲を見つけてくれたら嬉しいですね」