インタビュー

LONG REVIEW——EGO-WRAPPIN’ 『steal a person's heart』



ふいに心を盗む〈歌心〉



EGO-WRAPPIN'



初めて聴いたとき、アコースティック・ピアノの爽やかで甘い音色が心地良いオープニングのミディアム・バラード“水中の光”を続けざまに何度もリピートしてしまい、先に進めなくなってしまった。というのも、あまりに柔らかくて凛とした中納良恵の歌声が絶品で、陶然とした気分に長く酔いしれたくなったから。そして実際のところ、EGO-WRAPPIN の8作目『steal a person's heart』には、このように思いがけず心をガッチリと掴まれるような歌がめっぽう多い。

前作『ないものねだりのデッドヒート』は、雑多なタイプの曲を取り揃えたメロディー・オリエンテッドな作品だった。この新作も、山塚アイとのパフォーマンス・ユニット、パズル・パンクスでも知られる現代美術家・大竹伸朗が作詞を手掛けた夜更けの似合うジャジー・チューン“女根の月”、晴れやかな旋律を持つポップ・ナンバー“AQビート”、タブゾンビのトランペットが吠えまくるロッキッシュなアップ・チューン“ちりと灰”など色とりどりな楽曲が揃っているけれど、何やら穏やかな曲とハードな曲の振れ幅が大きく感じられる。そんななかで豊かな感情の起伏を表現する中納がとにかく素晴らしく、曲が進むにつれて、彼女の歌声がその時々でどんな揺れ方をしているのかを読み取ろうと、自然と意識が働き出す。ストリングスが優雅に、そして力強く波打つエンディングの“fine bitter”が白眉で、伸びやかで透明感に満ちたヴォーカルが極上だ。いつにも増して〈歌心〉が存分に溢れた『steal a person's heart』は、この快盗デュオの魅力がストレートに伝わる作品になっていると思う。


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掲載: 2013年04月10日 18:01

更新: 2013年04月10日 18:01

文/桑原シロー