EGO-WRAPPIN’ 『steal a person's heart』
[ interview ]
これまでのEGO-WRAPPIN'は、中納良恵(ヴォーカル)と森雅樹(ギター)という2人の熱烈なロマンティストが音から記憶を香り立たせながら、そして、散りばめた言葉の間にシネマティックなイメージを揺らめかせながら、リスニング空間を得も言われぬ美しいムードで満たす――そんな音楽を奏でてきた。そして、彼らの8作目『steal a person's heart』は、EGO-WRAPPIN'がソングライティングやレコーディングの新たな方法論を模索した作品であると同時に、そのタイトルが示唆しているように心の内を明確な言葉で歌い、語り、メッセージを打ち出すことで、抽象性だけでなく具象性にも歩み寄りを見せた挑戦的なアルバムだ。その瑞々しい響きによって、聴き手の心を奪い去り、彼らはどこへ向かおうというのだろうか?
自分の気持ちを歌いたかった
——早いもので、前作『ないものねだりのデッドヒート』から2年半経ちましたね。
中納「前作はライヴの合間にレコーディングをやったり、BRAHMANと『SURE SHOT』(2010年のコラボ・シングル)を作ったり、あまりに慌ただしかったから、次のアルバム制作までブランクを置きたかったんですよ。それでちょっと落ち着いてから曲を作ろうかということになっていた時に東日本大震災が起きて。その後、アコースティック・ライヴをやる機会が増えたんです」
――チャリティー・イヴェント?
森「そう。大阪・梅田のnoonでうちら2人と大阪で昔いっしょにやってた子らを集めて即席でやったんですけど(2011年3月27日の〈東日本大震災チャリティーイベント! 愛と誠2〉)、自分のなかでその時のライヴがいい感触だったので、〈2人でやってみるのもおもしろいかもしれない〉と思って、一時期は2人編成だったり、ドラムの菅ちゃん(菅沼雄太)を交えた3人編成のライヴを優先させてたんです。普段のEGO-WRAPPIN'はスタンディングのライヴが多いので、みんなが座って聴くアコースティック・ライヴでの音の伝わり方が自分たちには新鮮だったり、心地の良さもあって、そうした経験がその後の曲作りにも影響があった気がします」
――確かに新作アルバム『steal a person's Heart』は響きの繊細さが際立っている“Fall”やギターの弾き語りの“blue bird”など、落ち着いた曲も多いですもんね。
森「そんななか、今回のアルバムでは、1曲目“水中の光”がいちばん最初に出来たんです。ピアノの弾き語りを聴かせてくれた時点で、よっちゃんのなかに具体的なアルバムのテーマはなかったと思うんですけど、僕のなかではその曲が出来たことでアルバムの方向性が定まったところはありますね」
——ピアノを中心としたシンプルなアレンジに真っ直ぐな言葉を乗せて歌っている“水中の光”はこれまでのEGO-WRAPPIN'にはないストレートな曲ですよね。
中納「優しい曲を作りたいなと思ったんです。絵のように歌詞を書くのがいつもの私の作詞の仕方なんですけど、この曲では気持ちを歌いたかった。震災が起きて、〈自分は何をしたらいいんやろ〉って、みんなも考えたと思うんですけど、自分も〈何ができるんかな〉って考えて、地方へ歌いに行ったり、東北の知り合いと電話で話したりするなかで、〈元気が出ました〉とか〈ライヴに来てもらえるだけで嬉しいです〉って言ってもらうことで、“水中の光”では自分の気持ちを歌いたいなって強く思ったんですね」
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