SALU 『In My Life』
[ interview ]
ヒップホップ・シーンでは既に大きな注目を集めていたが、BACHLOGICの立ち上げたレーベル、One Year Warから昨年リリースされたソロ・アルバム『In My Shoes』で、その存在感をより広い層の音楽リスナーにも届けたラッパー、SALU。以降は“鵠沼フィッシュ”や“I Gotta Go”などを配信/シングルで発表してきた彼が、そうした既発曲と新録曲をパックしたミニ・アルバム『In My Life』をリリース。より内面性や視点も含めた〈彼自身〉が強く表れた本作は、また一歩、彼への理解を深めると共に、彼独特の世界観作りに対する興味深さを感じさせる作品だ。
一人にならないようにメッセージを渡す
――最近のライヴはすごく充実していますね。
「最近、ライヴがホントに楽しいですね。いままでも好きだったんだけど、昔はライヴまでの道のりで緊張してたんですね。でも、いまは緊張もするけど同時に楽しいって思えるようになって」
――そのキッカケは?
「もともと閉鎖的な人間で、人と目を見て喋れなかったり、家から出られないみたいなタイプだったから、ライヴするときだけが自由って感じだったんですね、前は。でも、人との出会いを通して自分の中身が変わってきて、単純に〈生きるのが楽しい〉って思えるようになったっていうのが、いちばん大きいかなって。それにはプロデューサーのBACH LOGICさんとの出会いっていうのがまずあると思うんですけど、そこまでのプロセスも、ひとつも欠かせないですね。BLさんと出会えたのはSEEDAさんのお陰、SEEDAさんと出会えたのはOHLD君のお陰、OHLDくんと出会えたのはあぐらCREWの……っていう道を辿っていくと、偶然か必然かはわからないけど、いままでの経験は、何ひとつ欠かすことのできない、一期一会だったのかなって思うんですよね」
――そういう道のりを肯定できてるってことは、いまが充実してるってことですよね。
「そうですね。『In My Shoes』に収録した“In Your Shoes”でも書いたんですけど、無駄なことはひとつもなくて、いま、この瞬間も、これからの瞬間も、噛み締めていきたいなって。そういうマインドになれたっていうのは、充実してるってことなのかなって思いますね」
――ライヴのMCでもそういったメッセージをリスナーに伝えてますね。
「よりわかりやすく聴いてほしいんで、そういった言葉をガイダンス的に伝えるというか。せっかく大勢の人の前でライヴさせてもらえるんなら、そういったメッセージをちゃんと伝えようって思うんですよね。でも、誰かと100%解り合うってことは不可能だと思うんです。だけど、どれだけ自分の思いを伝えられるか、相手の思いを汲み取れるかっていうのが、言葉が生まれた理由だと思うし、そこを大事にしたいなって。そのために、僕から恐れずに思ってることを伝えて、思いを渡しに行こうって。そんなふうに心を開いておきたいんですよね。僕自身、なぜライヴをするのか、なぜ手を握るのかってことを考えたら、それは一人が寂しいからなんだろうなって。それは、僕もみんなも同じだと思うんです。だから僕は、一人にならないように、メッセージを渡すのかなって」
――それは、SALU君が家もなく、お金もない状態だったときに、あぐらCREWや仲間がいて支えてくれたって経験に基づくものですか?
「そうですね。もっと遡れば、幼い頃に身近な人が死んでしまったり、自分の周りには親の顔さえも知らない友達がいたり。みんなそれぞれ、そうやっていろんな辛い経験があって、でも、人の前では笑顔であろうとする。だからせめて、自分と自分の周りの人の気持ちは解りたいって思うんですよね」
――SALU君がラップを選んだのは、いわゆる〈歌詞〉のように短いセンテンスで何かを使えるっていうより、〈リリック〉として言葉を尽くして、なんとか自分の言葉を伝えたいからなのかなっていまの話を聞きながら思ったんですが。
「あー……自分で意識してそう考えたことはないですけど、無意識にそう思ってて、自然とそうなったのかもしれないですね。でも、ラップを始めた原点っていうのは、楽器ができなくても歌が上手くなくても、ラップだったら音楽ができるなって思ったことだったんですけど。楽しそうだなって(笑)」
――それがいつしかライフスタイルになり。
「音楽で食ってこうって思ってたわけじゃないんだけど、気が付いたら頭の中でフリースタイルをしてたり、思い付いたリリックをメモしてたり。シンガポールでラーメン屋の店長として成功してやるって思ってたときも、やっぱり頭の中ではフリースタイルしてたんですよね」
――もう、ラップに呪われてるというか。
「まさにそうですよね(笑)。ラップ・ウィルスに感染してますね」
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