INTERVIEW(2)――届ける距離感を縮めたい
届ける距離感を縮めたい
――“鼓動”について言うと、歌がグッと前面に出ているでしょ。いままでよりもあきらかに。
「〈シングルで1曲〉となった時に、歌を始めた頃の自分を、すごく思い出したんですね。本当の自分の姿になるまで、どんどん引き算していくと、それは音楽に目覚めた時の自分になるんだろうな、と。オレが音楽に目覚めた時って、音楽のことは何も知らないけど、とにかく歌ってたんですよね。もちろんヘタなんだけど、何も知らなかったからこそ、自分の歌だったんだろうなと思うんですよ。それからだんだん、いろんな歌い方をしてみたくて、ロックな曲もバラードの曲も、それなりに歌えればいいなと思ってやってきたけど、この“鼓動”と“蕾”に関しては、ロックもバラードも知らなかった頃の自分の歌い方を、いま取り戻せるか?と。それこそが自分の姿じゃないかな?と。歌の技術にこだわることなく、素直に、そのまんま歌えればいいなと。それは歌だけじゃなくて、歌詞も、曲もですけど」
――それが今回のテーマなんだ。
「そうですね。いままでは、音楽じゃなくて〈音学〉だったんですよ。楽しむじゃなくて、学ぶだった。だからこそここまで来れたんだけど、これからは本当に〈音楽〉として、自分が楽しむために本気になって、どんどん削り取っていきたい。これからは〈音楽〉だなと思いましたね」
――“鼓動”はね、イントロがむちゃくちゃカッコイイ。イントロ大賞あげたい(笑)。最近こんなカッコ良くてロックなイントロ、聴いたことない。
「最近もリハでやってるんですけど、イントロ、ドヤ顔ですからね(笑)。しかも、ものすごく簡単」
――いや、簡単でカッコイイのが、いちばんだと思うな。
「でも、無理して簡単にしてるわけではなくて。もともとテクニカルなミュージシャンではないので、素直に伝わる良さとか、オレっぽさとか、ずっと意識してきたけど、ここで本当に向き合うようになったということだと思います。曲も、歌詞も。歌詞は、いままでも自然体で書こうとはしてたんですけど、この“鼓動”と“蕾”でやったのは、もっと生々しい自分の感情を出したいと思ったから、恋愛ソングなら恋愛ソングと決めて、そのなかで自分の素直な気持ちを出していこうと。“鼓動”は、曲の雰囲気にちょっと艶っぽいところがあるので、自分が男で相手が女で、〈君を奪い去りたい〉という強い気持ちを書いていて、“蕾”はもうちょっと初々しい、初恋みたいな感じ。そういうチャレンジも、歌詞でできたかなと思います。いままでは、音のほうをすごく集中して勉強してきたんですけど、言葉ってすごい大事じゃないですか。歌詞って、自分といちばん向き合うところだと思うんですけど、やっとそういうものが出来たのかなと思います」
――サウンドの話に戻ると、イントロのあのメタリックなリフと、アルペジオの綺麗なリフの共存は、太郎くんが考えたもの?
「そうです。時間があったんで、この2曲では、オレが全部ギターを弾けたんですよ」
――それは大きいね。
「いやーもう、超練習しました。本当に、そういうところも含めて、いままででいちばん小林太郎の純度が高いものが出来たと思います。いままではとりあえず、小林太郎の音楽をみんなに届けるという感じだったんですけど、それは変わらずに、いま何をしたいか?といったら、届ける距離感を縮めたくてしょうがない。オレが普段考えてることと、オレの音楽を聴く人が考えてることと、共通してるところはたぶんいっぱいあると思うんですよね。オレは、ほかの人の作った曲なのに、自分の曲のように思えて、そういうものに心を救われたことがあるので、オレもそういう音楽を作っていきたいんだって、改めて強く感じたところですね。歌詞を書きながら」
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