インタビュー

Superfly 『Superfly BEST』



〈あの頃の自分〉がいたから、いまがある──楽曲を世に送り出すたびに何かに気付き、確かめることで飛躍を重ねてきた越智志帆の〈過去・現在・未来〉を結び付けるベスト盤!



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キャリア初となるベスト・アルバム『Superfly BEST』。〈そのテーマは?〉と訊くと、越智志帆はこう答えた。

「〈過去・現在・未来〉。単にシングルをまとめただけじゃなく、現在から見た過去と未来を結び付けて見せられるアルバムにしたかったんです」。  過去があったから現在の自分がいる。それをしっかり捉え直すことで未来の自分が形成される。志帆はそのように考えている。だからSuperflyの曲には過去を振り返って書かれたものが意外と多い。サード・アルバム『Mind Travel』(2011年)収録の“Secret Garden”は子供の頃にひとりでいろんなことを考えていた実家の庭を頭に浮かべながら〈あの頃の無邪気な私〉を回想した曲だったし、やはり同作に収められた“Morris”でも〈歌とピアノに憧れ〉て得意げにメロディーを奏でていた幼い日の自分が歌われていた。そして『Superfly BEST』に用意された新曲のひとつである“Always”もまた過去をテーマにしたもの。「私にとっての原風景……私がいつでも〈あの頃の自分〉に戻れる故郷の景色を思い浮かべて書いたんです」と言う。

〈あの頃の自分〉──現在と未来のSuperflyを照らし出すため、ここでもう一度そこを振り返ってみる必要があるだろう。



歌ってすごい!



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「音楽を好きになったきっかけは、3歳のときに始めたピアノかな。私は外で元気に遊ぶような子じゃなくて、ピアノを弾きながらよく曲を作って遊んでいた。好きだったんですよ、曲を作るのが。通ってた中学が音楽教育に熱心なところで、学級歌を作ってみんなで歌おうっていうイヴェントがあって。1、2、3学年とも私が曲を作って、歌詞もつけて、クラスのみんなに歌ってもらったりしてました」。

意外なようだが、実は歌う喜びに目覚める以前に、志帆は曲を作ることを楽しんでいた。が、高校に入る頃に気持ちが変化したそうだ。

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「曲を作ることよりも、とにかく歌いたいって気持ちになってしまって。もちろん歌うことも小さい頃から好きだったんですけど、中学のときに全校生徒で合唱するイヴェントがあって、友達5~6人のグループでゴスペルを歌ったんです。そのときに〈歌ってすごい!〉〈私の心を表現するものは歌なんだ!〉って気付いて。人前に出て歌うことが私は何より好きなんだなって、そのときにわかったんです」。

その際は、何しろ解き放たれた感覚があったそうだ。

「私は人と話すのが本当に苦手で、コミュニケーションを取るのが下手で。自分にまったく自信が持てなかったんですね。それは小さい頃からのコンプレックスで、ずっとモヤモヤしてたんですけど、初めて人前で歌ったときに不思議と解放感があった。歌うことで自分を表現することができるんだなって、ハッキリとそう思ったんですよ」。

その後は洋楽にどっぷり浸かるようになり、ジャニス・ジョプリンやキャロル・キングに憧れを持つように。コピー・バンドを経た後、Superflyの名のもとに活動を開始し、2006年には元メンバーで現在は作曲家として活動している多保孝一とふたりでプロをめざして上京した。そして2007年4月にシングル“ハロー・ハロー”でデビュー。〈ここから全てが始まるよ〉と歌われたこの曲での志帆の声は、いま聴くといかにも若くて瑞々しい。

「ホント、若いですよね(笑)。全力で歌ってましたから」と笑い、そしてこの頃を回想する。

初めはふたりでSuperflyをやっていたので、〈Superflyのイメージ=バンド・サウンド〉に近付けようと必死でした。私の歌がどうこうというよりは、サウンド志向でしたね。気持ちを込めて歌ってはいるんだけど、私の歌はまだサウンドの一部というような感じがする」。



もっと自分自身を表現したい

だが、シンガーとしての自我が目覚めるきっかけは意外と早くに訪れた。それは、2007年のシングル“i spy i spy”。オーストラリアのロック・バンドであるジェットとのコラボレーション楽曲を制作するために、シドニーでレコーディングが行なわれたのだ。

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「あれはいい経験でしたね。あらかじめ私たちで用意していった曲があったんですけど、彼らの意向で白紙の状態からアイデアを出し合って作り直そうってことになって。初めは戸惑ったんですけど、私が出したメロディーのアイデアに彼らが飛び跳ねて喜んでくれたり、ウィスパー・ヴォイスで歌ってくれと言われて初挑戦してみたら自分でも驚くくらい感情移入ができたりと、いろんな発見があった。それまでのSuperflyプロジェクトでは求められてなかったそういうことが、越智志帆的にはすごく刺激的で、味をしめちゃったというか(笑)。それが〈もっと自分自身を表現していきたい〉という思いに繋がったんです」。

このあと多保孝一がコンポーザーとして自立する意向を表明し、脱退。Superflyは志帆のソロ・プロジェクトとなり、4枚目のシングル“愛をこめて花束を”(2008年)から蔦谷好位置をプロデューサーに迎えて制作されるようになった。

「ここでずいぶん変わった感じがありましたね。蔦谷さんは私の自由にやらせてくれた。何よりも歌と言葉を大事に考えてくれたんです。蔦谷さんは技術的なことにこだわるのではなく、気持ちさえ入っていればピッチがずれても構わない、むしろ崩して歌えっていうタイプで。自分の感情をさらけ出して歌うことの大事さに気付けたのは、蔦谷さんと仕事をするようになってからでしたね」。



気付きと確認を繰り返して

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セカンド・アルバム『Box Emotions』(2009年)の頃には、作曲が多保孝一もしくは志帆、編曲とプロデュースが蔦谷、ヴォーカルが志帆という形になり、楽曲の幅もグンと広がった。だが、そんななかで志帆の心にはある葛藤が生まれていた。挑発的で野性味のあるロックをパワフルに歌う〈Superfly〉と、人見知りで繊細で孤独をよく理解しているひとりの女性〈越智志帆〉。そのふたつの人格が乖離していってることを感じていたのだ。その葛藤に対して、彼女はみずから荒療治を施してケリをつけた。〈これぞまさしくSuperfly〉といったロック・ナンバーを自身で作詞作曲して放ったのだ。そう、“タマシイレボリューション”(2010年のシングル『Wildflower & Cover Songs: Complete Best‘TRACK 3’』に収録)である。

「この曲で私なりのSuperflyというものをちゃんと表すことができたことによって、吹っ切れた。また、たくさんの人にこの曲が受け入れられたことで、〈ああ、間違ってなかったんだな〉とも思えた。自分がSuperflyであることにようやく自信が持てたんです」。

また一方では、“愛をこめて花束を”以来となったラヴソング“Eyes On Me”(2010年)で、「ずっと蓋をしておこうと思っていた自分のなかの女性的な部分」を表現したりもした。

「Superflyはロック・アーティストであるというところをずっと意識してきたけど、この曲からその時々の気持ちに逆らったりしないで自然でいようって思うようになりましたね」。

このようにして志帆は、不器用ながらも曲を出すたびに何かに気付き、何かを発見し、何かを確かめ、ひとつひとつ納得しながら進んできた。「心を開いて歌うことの意味を知り、それを教えてくれた人への感謝の気持ちを表した」と言っていたのは昨年の15枚目のシングル“輝く月のように”のときであり、4作目『Force』では「恐れず、もっとさらけ出せる力が欲しい」という思いをダイナミックなライヴ感で表現してみせた。

こうした一個一個の気付きや確認が歌詞とサウンドとヴォーカル表現の進化にそのまま結び付いていることは、配信限定曲を含むシングル26曲がリリース順に並んだ『Superfly BEST』を聴けば手に取るようにわかるだろう。また「一回限りの人生なんだから後悔しないように感情を剥き出しにして生きていくしかないんだ」という現在の気持ちを志帆は華やかな新曲“Bi-Li-Li Emotion”で表現し、2枚組の最後を飾る3つ目の新曲“Starting Over”ではこの先も続いていく道……つまり未来に向けての希望を晴れやかに歌っている。ちなみにその“Starting Over”は、昨年6月から今年4月にかけての長いツアーをやり終えた直後に心境を綴った曲だ。

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「ツアーが終わった途端、新しいメロディーが頭の中に流れてきたんです。それがとっても嬉しくて。早くそれを形にして出したいと思ったんです」。

そういえば、人前で歌う喜びに気付く前、志帆はよくピアノで作曲をして楽しんでいたと話していたが……。

「うん。幼い頃は曲を思い付いたら一日中、それを歌っていたんですよ。その感覚をもう一度呼び起こしたい。また無邪気に作曲を楽しみたいなって、最近よく思ってるんです」。

もしかしたら、彼女はそう遠くないうちに新しい風景を見せてくれるのかもしれない。



▼SuperflyのライヴDVD。
左から、2009年の「Rock'N'Roll Show 2008」、2010年の「Dancing at Budokan!!」、2012年の「Shout In The Rainbow!!」、2013年の「Force ~Document & Live~」(すべてワーナー)

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掲載: 2013年09月25日 18:00

更新: 2013年09月25日 18:00

ソース: bounce 359号(2013年9月25日発行)

インタヴュー・文/内本順一