映画『ペタルダンス』
映画『ペタルダンス』
石川寛(監督・脚本・編集)
美しく舞う“ペタル”のような4人の女優たちへの監督からの手紙
シンプルだけどニュアンス豊か。その繊細な映像センスと語り口で独自の世界を作り出してきた石川寛監督の最新作『ペタル ダンス』は、3人の女性達によるロードムービーだ。自殺しようとしたかもしれない大学時代の友達、ミキ(吹石一恵)を久し振りに訪ねることにしたジンコ(宮﨑あおい)と素子(安藤サクラ)。そこに偶然、ジンコと知り合った原木(忽那汐里)が加わって、3人を乗せた車は北へと向かう。そんな彼女達の旅を通じて監督が描きたかったこと、それは花びらのように揺れる彼女達の心だった。
「ずっと、女の人達の心の揺れを描きたいと思っていたんです。それで〈ペタル(花びら)〉という言葉を知った時に、花びらが舞っている様子が心の揺れに似ている気がして、まずタイトルが決まった。でも、花びら一枚ではあまり人の心に触れなくて、同時に何枚も舞うからいいんだろうなと思って、そこから何人かの女性のロードムービーという形になっていったんです」
これまで『tokyo.sora』『好きだ、』といった作品を通じて、女性達を魅力的に描いてきた石川監督。脚本を渡さず、撮影の日に役者ごとに役作りのヒントになる手紙を書いて、それをもとに役者は自分の言葉でセリフをいうというユニークな演出が、石川作品に独特の空気感を生み出しているようだ。
「その人がカメラの前で役として存在してたら、その人から自然に出る言葉は、僕が書いた言葉よりもその役の言葉として聞こえるように思うんです。自分で書いた脚本はあるんですけど、それは物語がどこに向かって、どこに到達するか、道筋を確かめるためのものだと思っています」 今回の撮影では、ロケ先のホテルで毎晩のようにキャストに向けて手紙を書いていた石川監督。それが監督にとっての旅の思い出だった。
撮影が終わるとホテルに帰って、寝るまで一人一人に手紙を書くんです。その人のことを想いながら。でも、それは苦痛ではなくて。その手紙をそれぞれが読み込んだ上で、カメラの前に立ってくれているのがわかると、自分の手紙に返事をもらったような気がするんですよね」
返事の仕方は人それぞれで、そのどれもが監督にとっては印象的だったらしい。例えば安藤サクラの場合は──。
「〈そういう返し方もあるのか〉っていう意外さがありましたね。でも、決して奇をてらっているわけじゃないです。僕のやり方に合わせたうえで、〈こういう風に感じる女性もいるんですよ〉っていう返し方。ある意味、それはとても誠実な返信なんですよね」
そして、この映画もまた、観客に宛てられた美しい手紙。その返事は観客の胸の中でしたためられるのだ。