インタビュー

DJ RASHAD 『Double Cup』



わがまま気のまま愛のジューク! シカゴのサウスサイドに育まれた才能が、なんとハイパーダブ入り! 小器用なオマエらのケツを吹っ飛ばす爆弾はここにあるぜ!!



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往時のダブステップという言葉が示す領域からいち早く抜け出し、広い意味でのベース・ミュージックを自由に送り出しているUKのハイパーダブ。まもなく10周年を迎えるこのレーベルがいまなお野心的に視野を広げているということは、コード9が惚れ込んでDJラシャドと契約したことからもあきらかだろう。ただ、本国USはもちろんヨーロッパでも支持を広げるラシャドの勢いは、あるいはハイパーダブというイメージからももっと自由なポテンシャルを備えたものかもしれない。

シカゴのゲットー・ハウスから派生し、フットワーク(ダンス)バトル用のトラックとして進化してきたジュークは、とにかく速くて、アッパーにつんのめったビートがヤバいダンス・ミュージックだ。ただ、そのアンダーグラウンドな出自もあってか、良くも悪くも門外漢にはカルトなもののように映ってしまうこともあった。日本にある種の信者を抱えるプラネット・ミューが〈紹介〉したことが遠因なのかもしれないが、それでもマイアミ・ベースやゲットー・テックとも縁戚にあたるこのベース・ミュージックの黒くて無双なカッコ良さは、もう少し短絡的に取り上げられてもいいと思う。そんななかで相応の広がりを期待したいのが、ラシャドにとって初めて一般流通のフィジカル・アルバムとなるハイパーダブ・デビュー作『Double Cup』だ。「ハイになりたい時に飲むドリンクを指すスラング」から名を取ったという今作のハイパーなおもしろさは、「リスペクトしているし、フットワークと起源が似ている」と語るジャングル/ドラムンベースも取り込んだアグレッシヴなビートそのものにある。

「最近はツアーでヨーロッパを回ることが多かったからよりたくさんの人にこのアルバムを届けたかったし、単にバトル・トラックだけでなく、より幅広い音を採り入れたかった。ハードコアなバトル向けのフットワーク・トラックも収録されているけどね。前と比べて俺が作るトラックとダンサーの関係性に変化はないよ。俺は160BPMというフットワークのパレットの上でサウンドの領域を広げているだけなんだ」。

イレギュラーでありつつスクエアにも響くジューク特有のノリノリなビートは、ザックリした多種多様なサンプリングやフリーキーな意匠によって快感を増幅していくものだ。相棒のDJスピン(あのDJスピンとはもちろん別人)と作り上げたストリクトリーなトラックを基軸に、アディソン・グルーヴと共作した“Acid Bit”ではそのまんま90年代風のアシッドを取り込むなど、興味の広がりも窺わせながらジュークの間口を自然に広げているのが素晴らしい。さようにある種のポップさを革新的に披露しながらも、「俺の夢はこのままこの音楽を作り続け、成長させ続けることだよ」と話す通り、ブレることなくスタイルの成熟へと結びつけた傑作『Double Cup』。日本盤のボーナス・トラックとして追加収録された代表曲“Reverb”も含め、この音楽のメチャクチャな楽しさがもう少し無責任に受容されることを期待したい。このアルバムには、ラシャドには、それが可能だ。



▼DJラシャドの楽曲が聴ける作品を一部紹介。
左から、DJゴッドファーザーの2008年のミックスCD『The Detroit Connection Pt.3』(Matrix Musik)、2010年のコンピ『Bangs & Works Vol. 1』(Planet Mu)、コード9の2013年のミックスCD『Rinse 22: Kode 9』(Rinse)

 

▼DJラシャドの参加した作品を一部紹介。
左から、トラックスマンの2012年作『Da Mind Of Traxman』(Planet Mu)、2012年のシャンガーン・リミックス企画盤『Shangaan Shake』(Honest Jon's)、DVAの最新EP『Mad Hatter vs. Fly Juice EP』(Hyperdub/BEAT)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月20日 14:50

更新: 2013年11月20日 14:50

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

構成・文/出嶌孝次

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