YES(イエス)、2年ぶりのジャパン・ツアー「The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024」開幕
Photo by Kazumichi Kokei
「『Close To The Edge』の曲は以前から何度も演奏しているから、今回は新鮮で斬新なアプローチが必要だった。だから、控えめに言ってとてもエキサイティングだし、大きなチャレンジでもある。YESにチャレンジ精神がなくなってしまったら、そのときはバンドの終わりを意味するんだ」(Steve Howe/Gt/Vo)
プログレッシヴ・ロックの代名詞と呼べる最高のバンド、YESが2年ぶり12度目の来日を果たし、9月16日の東京公演からジャパン・ツアーが始まった。今回は東京3日、仙台1日、名古屋1日、大阪1日の合計6公演が行われ、約10日間かけて日本を縦断する。YESが仙台でコンサートを行うのは1994年のトーク・ツアー以来で、なんと30年ぶりだそう。
来日メンバーは2022年に行われた前回公演と同じで、Steve Howe、Geoff Downes(Key/Vo)、Billy Sherwood(Ba/Vo)、Jon Davison(Vo)、Jay Schellen(Dr)の5人。Steveは70年代黄金期からのメンバーで、Geoffは80年代、Billyは90年代からYESと深く関わってきている。JonはYESに加入してから早12年が経過して完全に「ヴォイス・オブ・イエス」として定着したし、Jayも8年前からYESをサポートしてきて、2023年2月に亡きAlan Whiteの後釜として3代目ドラマーに就任している。
今回は「The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024 デビュー55周年記念公演」と銘打っており、1969年のレコード・デビューから55周年を記念した公演という位置付けになるうえ、1973年のリリースから50周年を迎えた『Tales From Topographic Oceans』をフィーチャーした昨年のアメリカ・ツアーからの流れを継承し、さらに最新作『Mirror To The Sky』までを俯瞰した、聴きどころ満載の選曲となっている。公演ごとにテーマを決め、それに沿った選曲で毎回楽しませてくれるYESだが、今回は「決してノスタルジックなアンソロジー・ショーにはしたくない」というSteveの想いを汲んだ、新旧ファンが歓喜するようなセットリストを用意してくれた。
東京公演は、YESとして初めて昭和女子大学の人見記念講堂での開催となった。まず注目したいのが、5人の出で立ちの変貌ぶりだ。2年前と比べ、彼等の雄姿は一段とスケールアップしていて、ステージ上の佇まいも堂々としているのが分かる。それはまさしく「団結」と「自信」の表れなのだろう。それを早々に証明したのが1曲目の“Machine Messiah”だった。いきなり10分強の曲を、ほぼレコードと同じスピードで一糸乱れず演奏し、この曲のオリジナル・パフォーマーであるSteveとGeoffの掛け合いもお見事。
続く定番曲“I've Seen All Good People”では、JonとBillyとSteveによる流れるようなコーラス・ハーモニーが美しくて早くも夢心地となる。3曲目はついに日本初演となる“Going For The One”が登場。Steveによるスティール・ギターの絶妙なボトル捌きが映える曲で、そのダイナミックなロックンロールが身体を揺らす(Steveはスティール・ギターを左右に移動させながらソロを弾くという妙技も披露!?)。
“America”は中盤から後半にかけての「Southern Solo」と呼ばれるインスト・パートが演奏され、ここでもSteveのギター・ソロに注目が集まる。彼はソロを弾きながら歩き回ったり片足を上げたりと、とにかく元気一杯で、一頃心配されていたリズムの遅れも皆無になった。続く“Time And A Word”と“Turn Of The Century”はフル演奏。こうしたバラード曲におけるJonのヴォーカルの伸びやかな高音の美しさは、まるで天使のようだ。また“Turn Of The Century”におけるSteveのアコースティック・ギターの静謐な響きを始め、彼の得意技である曲中でのギターの持ち替えやGeoffの優雅なピアノ・ソロ、Jayのマレット演奏等、この曲のオリジナルのイメージを損なうことなく、大切に演奏されたのが何よりも嬉しかった。
第1部の最後は“Siberian Khatru”が演奏された。当初予定されたセットリストには入っていなかったものの、サウンド・チェック中に急遽変更されたらしい。今回の公演は前回公演とは選曲が重複しない(アンコールを除く)はずだったので、これは嬉しいサプライズ。変拍子やキメの多い曲だが、もちろん完璧な再現演奏で、大歓声のもと第1部は締めくくられた。
約20分の休憩後、第2部は“South Side Of The Sky”で幕を開けたが、なんとあの『Fragile』と同じ靴音のSEから始まったのにはビックリ。この曲は難易度が高く、中盤のピアノ・ソロや後半におけるギターとシンセの掛け合い等キーボードの見せ場が多いのだが、Geoffが奮起してスティーヴとの激闘を見せてくれた。Steveが赤いストラトに持ち替えた“Cut From The Stars”は、この5人のメンバーでレコーディングした最新曲ということもあり、抜群にシャープでドライヴするグルーヴィなサウンドは、今日イチバンの出来映えだった。
第2部の最後で今晩のハイライトは、YES史上最強の超大作『Tales From Topographic Oceans』(合計80分)を20分強の長さにアレンジしたダイジェスト・メドレーだ。このアルバムがリリースされた当時でさえ全曲を演奏する機会は決して多くはなかったのに、Steveはこのアルバムの全体像をなんとかライヴで披露したいと考え、壮大なダイジェスト構想に至ったという。Steveによれば「クラシック音楽のように演奏者を変えることはできても、聴衆のYESに対するイメージを変えることはできない」ということで、オリジナル・アレンジからの編集作業にはかなり苦労したようだ。だが実際に作業を始めてみると、単なる時短のためにハサミを入れる編集とは異なり、組曲に新しい視点を与え、誰も想像したことがなかった「新しい組曲」として成立させることに成功している。なんと我々リスナーは、あの大交響曲のエッセンスを一気にライヴ体験することができてしまったわけだ。言葉で表現するのは難しいが、このメドレーの素晴らしさは実際に会場で爆音体験してもらうのが一番分かりやすいだろう。
アンコールは定番中の定番である“Roundabout”と“Starship Trooper”が演奏された。プログレだから大合唱というわけにはいかないが、誰もが小声で「Roundabout」を一緒に歌っていたのは実に微笑ましい光景だったし、終演後に皆が口を揃えて「楽しかった!」と言っているのを聞いてホッコリ。休憩を除いてきっかり2時間のパフォーマンスは、選曲、演奏、満足度ともに過去最高レベルに達してきている。超絶テクニックに溢れるコテコテのサウンドを体験するのもプログレの醍醐味だと思うが、印象派の絵画のように芸術的で繊細なYESミュージックを生で味わうのも、極上で贅沢な時間となるに違いない。
なんと言ってもSteve Howeの奮闘ぶりにはいつも驚かされる。77歳という年齢を全く感じさせない壮絶ギター・プレイを披露してくれただけでなく、曲の進行ポイントやカウント出し、照明の指示に至るまで、もうなんでもかんでも1人で背負ってる感じがヒシヒシと伝わってくる。現在のYESは平均年齢が65歳であり、若いロック・バンドと比較することはできないものの、複雑な構成や変拍子をものともせず、今も現役感たっぷりの演奏でもり立てているのはさすがだし、必ずしも年齢の高さがパフォーマンスに直接影響を与えるわけではないということが証明された、感動的な初日公演だった。
YESのジャパン・ツアーは始まったばかりで、東京と仙台、名古屋、大阪へと続いていく。音楽界のスターシップ・トゥルーパーたちが奏でる、極上のライヴ・パフォーマンスを見逃すことなかれ! 片山伸(Shin Katayama)
Photo by Kazumichi Kokei
▼ツアー情報
「The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024」
9月19日(木)東京 昭和女子大学 人見記念講堂
9月21日(土)宮城 SENDAI GIGS
9月23日(月・休)愛知 名古屋 岡谷鋼機名古屋公会堂
9月25日(水)NHK 大阪ホール
カテゴリ : タワーレコード オンライン ニュース | タグ : 来日
掲載: 2024年09月19日 13:00