ツルツルのスキンヘッドに、地底から響いてくるような野太く低い声。70年代には裸体にゴールドの鎖を巻きつけていた。アイザック・ヘイズ。42年、テネシー州コヴィントン生まれ。みずからを〈ブラック・モーゼ〉と名乗った彼は、視覚/聴覚ともに強烈なインパクトを与え続けてきたソウルマンだ。TVアニメ「サウスパーク」でシェフ役の声優を務め、映画「ハッスル&フロウ」でシブい演技を披露していたことも記憶に新しいところだが、鍵盤奏者としても優秀だったこの男が凄いのは、極めて異端でありながら人々を熱狂させるポピュラリティーを備えていた点だろう。第一期スタックスにおいてデヴィッド・ポーターとのコンビで多くの名曲(サム&デイヴ“Hold On I'm Coming”)を書き上げたこともその好例だ。だが、傍系のエンタープライズからソロ・アーティストとして飛躍した70年前後のヘイズの〈異端にして王道〉な振る舞いはもっと痛快だった。ムーヴメントという自身のバンドを率い、ソリッドなファンクをやれば、ジャズやポップスも視野に入れながらモノローグのように淡々と歌い綴るスロウ・ラップ調の長尺曲を臆面なくやってのけたスタイルはまさに唯一無二。いま振り返れば、それは後のディスコやヒップホップの源であったとも言え、実際にヘイズ自身もそれらのシーンと接触しながら生き長らえてきた。そしていま、スタックス復活の先頭に立つ。ヘイズの冒険は続くのだ。
『Shaft』 Enterprise(1971)
スリリングなテーマ曲“Theme From Shaft”で知られるサントラ。ドクター・ドレーが音ネタにした“Bumpy's Lament”などスコア然とした曲が多いなか、エクスケイプが取り上げた“Do Your Thing”、サザン・ソウル調の“Soulsville”といった歌モノがスタックスらしさを伝えている。
『Joy』 Enterprise(1973)
16分近くに及ぶ長くモッタリした表題曲(R&Bチャート7位)にて幕を開けるアルバムで、リズム・セクションを担うのはもちろんムーヴメントの面々。その表題曲はエリックB&ラキムからマッシヴ・アタックまでの楽曲にて幅広く借用されているサンプリングの定番でもある。
『Wonderful』 Enterprise
70年代前後にリリースされたシングル・オンリーの楽曲を中心とした編集盤。ブレッドやハンク・ウィリアムスのカヴァー、クリスマス・ソングなどを含むほか、16分を超えるビル・ウィザーズ“Ain't No Sunshine”のカヴァーなどサントラ『Wattstax』所収曲も収録されている。
『The Best Of Isaac Hayes - Polydor Years』 Polydor
スタックス倒産後、ホット・バタード・ソウルを経て77~81年まで籍を置いたポリドール時代のベスト盤。ディスコやメロウ・ソウルの傑作が並び、スタックス時代よりマトモに歌っているのがウリか。もちろん、ダーク&ラヴリーな音世界は相変わらず。