デトロイト・ベースの5人組ヴォーカル・グループ。これまでに幾度も語られてきたことだが、テンプテーションズからの影響は確かに聴いて取れる連中だ。しかしながら、ヴォーカル・グループとしての絶対的な実力をはじめ、パフォーマーとしての図抜けた感覚、さらには看板を3枚並べたリード・シンガー各々の際立つ個性に至るまで、どこを取ってもテンプスとは互角かそれ以上だと僕は思っている。また、レパートリーの粒揃い具合も麗しく、スタックスの傍系ヴォルトからリリースされた3枚のアルバムのうち、下掲のデビュー作『Whatcha See Is Whatcha Get』と3作目『Dramatically Yours』はソウル史に刻まれた不滅の名盤と言えるものだ。ちなみにヴォルト時代にはメンバー・チェンジも行われている(2作目『The Devil Is A Dope』はメンバー・チェンジ前とチェンジ後の録音とが混在する内容に)が、初代リード・シンガーのウィリアム・ハワードと2代目リードとして加わったLJ・レイノルズの2人がいずれも希代の名シンガーなのはここで改めて強調する必要もないか。スタックスの枠組を超えて、70年代の最高峰に位置するクインテットである。
『Whatcha See Is Whatcha Get』 Volt(1972)
タイトル・トラックと“In The Rain”という不朽の名曲2つを含むデビュー・アルバム。プロデューサーのドン・デイヴィス、ソングライターのトニー・ヘスターといった有能な制作陣に囲まれて、デトロイトから直送された最高級のハーモニーが堪能できる。
『Dramatically Yours』 Volt(1973)
LJ・レイノルズとレニー・メイズが新たに加わって、彼らなりのヴォーカル・グループとしてのやり口というものをより深く伝えてくれることになった名盤。オープニングを飾る“And I Panicked”を筆頭に、神がかり級のバラードがズラリと並ぶ。