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第72回 ─ ソナー・コレクティヴ10周年!

THIEF 優しいサウンドで時代のハートをさらうフォーキーな盗賊団

連載
Discographic  
公開
2007/12/13   20:00
ソース
『bounce』 293号(2007/11/25)
テキスト
文/青木 正之


 〈クラブ・ジャズ〉や〈クロスオーヴァー〉なる言葉に新しい意味が生まれるきっかけを作り、常にシーンの向かう方向を示唆してきたジャザノヴァだが、彼らがこの数年お気に召しているのは〈フォーク〉だ。彼らの登場時に多くのクラブ・リスナーがジャズへと耳を傾けたように、同様の現象はフォークにも起こりつつある。そんな通称〈ネオ・フォーク〉がジワジワと人々の興味を集めるなかで、シーンの中核を成すのが、ファースト・アルバム『Sunchild』が高く評価されたシーフだ。ジャザノヴァのステファンとアクセルに、ヴォーカル兼ギターのサシャを加えた3人組である。

「ジャザノヴァがラジオでプレイしたり、コンピ〈Secret Love〉シリーズをリリースしたことによって、たくさんの人がフォーク・オリエンテッドな音楽に耳を傾けるようになったと思う。ただ、シーフの音楽における主な目的は、フォークというカテゴリーを一定の型にハメるということではないよ。さまざまな音楽的影響を融合させて、俺たち自身の音を作るのが目的なんだ。もちろんシーフの曲を気に入ってくれて、俺たちの好きな音をいっしょに楽しんでくれたり、俺たちの影響源を探してもらえたら嬉しいと思っているよ」(ステファン)。

「スタジオに泥棒が入って機材を半分も盗まれてしまったことがあったんだよ。で、俺たちは〈シーフだ!〉って叫んだんだ。それがきっかけだよ」(サシャ)とユニークな命名のエピソードを持つ彼らだが、音に対してはいたって真面目で、相当なこだわりもある様子だ。「60年代のサイケ・ロック~ポップ、フリー・デザインやロジャー・ニコルスのようなソフト・ロック、ジャズ、シンガー・ソングライター、フォークなどの中間に位置する」(ステファン)とみずからの音楽性を細かく説明する様子もさることながら、直接影響を受けたフォーク音楽についての言及からもそれは汲み取れる。

「テリー・キャリアー、ジョン・マーティン、ペンタングル、ニック・ドレイク、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン……。彼らはロックやブルース、ジャズ、ソウルを結び付けた〈フォーク〉を65年から70年代半ばまで展開していたと捉えている。俺たちが影響を受けたフォークというのは、その時期の音を指しているんだ」(ステファン)。

 こうした音志向にフォーカスするため、エレクトロニックなクラブ・ミュージックをクリエイトしてきた彼らにはさまざまな挑戦──ソングライティング、アレンジ、レコーディングなど──が必要だったようだが、ミクスチャー感覚に優れた彼らにとってはそれも自然なスタイルであり、彼らが活動当初から貫いてきたことなのだ。

「ジャザノヴァのDJ、そして作曲プロセスにおいてフォークはもともとその一部だったし、97年にソナー・コレクティヴがスタートした時からその影響はあるんだ。ただ、〈Secret Love〉や『Sunchild』の成功は、クララ・ヒルらが別の方向に音楽を進化させるきっかけにはなったかもね」(アクセル)。

 2008年にはジャザノヴァとしてのアルバムも予定しているステファンとアクセル。彼らやソナーの一挙手一投足から目が離せないという状況は、まだまだ続きそうである。

▼シーフの参加したフォーク・コンピ。