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第32回 ─ 300/30/30/30

第32回 ─ 300/30/30/30(2)

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2008/07/10   21:00
ソース
『bounce』 300号(2008/6/25)
テキスト
文/JAM、出嶌孝次、林 剛

1.ARETHA FRANKLIN
『I Never Loved A Man The Way I Love You』
Atlantic(1967)
男性アーティストを上に見るようなソウル観はそろそろ捨てようか……という意味も込めての1位。女性にもっとリスペクトを!とも受け取れる“Respect”(原曲はオーティス・レディング)で始まるアレサのアトランティック移籍第1弾アルバムは、ヴォーカルこそがソウルの本質なのだということを伝えるような名作だ。マッスル・ショールズのミュージシャンによって奏でられるサザン・ソウル・サウンド(大半はNY録音)の素晴らしさもさることながら、ゴスペルやブルースを身体に染み込ませ、ディープに、エレガントに振る舞うアレサの表現力には感心させられる。〈クイーン・オブ・ソウル〉も本作があってこその称号なのだ。
(林)

2.MARVIN GAYE
『What's Going On』
 Motown(1971)
ありとあらゆるノーザン・ビートを手玉に取ってきたマーヴィン・ゲイが、自身のメッセージの主題を〈博愛〉に置くことによって、それまでと比べものにならないほどの〈歌心〉を覗かせることに成功した作品集。表題曲や“Mercy Mercy Me(The Ecology)”といった楽曲自体の良さはもちろん、歌い手としての奥深い可能性を見せつけていることも本作が名盤とされる所以である。
(JAM)

3.OTIS REDDING
『Pain In My Heart』
 Volt/Atlantic(1964)
オーティスを体感するなら、大器早成な名唱がひしめくこの初作から。21歳の若造が発する〈ジィイ~♪〉という第一声だけで殺される自作の名バラード“These Arms Of Mine”を筆頭にサム・クックやベンE・キングの名曲も取り上げ、歌のエナジーそのもので曲やアレンジをも輝かせる様は圧巻。ロックな聴衆に向けた後年の激唱とは異なる、穏やかな爆発ぶりこそがソウルだ。
(出嶌)

4.DONNY HATHAWAY
『Extension Of A Man』
 Atco(1973)
70年代初頭に新しいソウルの潮流を生み出した鬼才のひとり。その最高傑作として名高いこの3作目は、ゴスペルやクラシック、ジャズ、ラテンなどとの異種交配によってソウル・ミュージックの可能性を大きく拡げた、静かなる革命作だ。〈いつか自由に〉と唱え、〈愛のすべて〉を歌うダニー。汗臭いソウル表現をメロウで洗練されたものへと変えてみせた功績も大きい。
(林)

5.STEVIE WONDER
『Songs In The Key Of Life』
 Motown(1976)
いわゆる〈3部作〉で自作自演派としてのセンスを突き詰めたスティーヴィーだが、黒い地力をたっぷり味わえるのはCD2枚組の本作だ。〈ワールド・ビート〉的なアレンジには先鋭性と均等な人懐っこさが内包され、“Another Star”のように壮大な大曲と“Sir Duke”などのオーセンティック路線が境目なく繰り出される様子も痛快。“Ebony Eyes”などの小品も名唱揃いだ。
(出嶌)

6.SAM COOKE
『Ain't That Good News』
 Abkco(1964)
ソウル・ミュージック史上の最重要人物と言っていいサム・クック。ポップ・スタンダードを朗々と歌い上げる人でもあるだけにアルバム単位で〈ソウル的名盤〉を選ぶのは難しいが、あえて選べば、米国黒人のアンセム“A Change Is Gonna Come”を収録した本作を挙げるのが妥当だろう。“Tennessee Waltz”にも黒人シンガーならではのソウルが込められている。
(林)

7.THE TEMPTATIONS
『The Temptations Sing Smokey』
 Motown(1965)
スモーキー・ロビンソンの織り上げたメランコリックな旋律を、モータウンきっての猛者揃いなクィンテットが鮮烈かつ華麗に次々と歌い上げていく名盤中の名盤。大ヒットした“My Girl”を引き合いに出すまでもなく、“Who's Lovin' You”や“The Way You Do The Things You Do”などのレパートリーは、どれもデトロイト産ソウルの希望を伝えるものばかりだ。
(JAM)

8.AL GREEN
『I'm Still In Love With You』
 Hi(1972)
いまも現役で活躍する彼のキャリアがピークを迎えんとする、まさにその瞬間に誕生した名盤。メンフィスから全米に向けて飛び出したこの男が、いかにしてセックス・シンボルとなり得たのかは、このアルバムを聴けばすぐにわかることだろう。“I'm Glad You're Mine”など、もっとも多くのサンプリング・ソースを生んだ彼のアルバムも、実は本作である。
(JAM)

9.THE SUPREMES
『Where Did Our Love Go』
 Motown(1964)
得意気に声を張るビヨンセ、じゃなく……ダイアナ・ロスの眩しいクリスタル・ヴォイスが綴る、完璧なポップ・ソウル・ソングブック。安室奈美恵も最近ネタ使いした“Baby Love”など、いまも瑞々しく響く逸曲だらけだ。モータウン・ビートやガール・グループといった様式美の典型ながら、この様式において彼女ら以上の独自性を打ち出せた例が存在しないのも事実。
(出嶌)

10.CURTIS MAYFIELD
『Back To The World』
 Curtom(1973)
穏やかな歌い口で人類や社会にメッセージを投げかけてきたカーティス・メイフィールド。ヴェトナム帰還兵が母国でも暗い現実に直面する──そんなやるせなさをさまざまな楽器を用いて表現した本作は、もっとも創造力に溢れていた頃のカーティスの才気が迸る傑作だ。表題曲を筆頭に、ファルセットで歌い上げるファンク“Future Shock”など名曲多数。
(林)